とある世界で多くの血が流れながら激闘が続き、最後の決戦が始まった。
勇者と大魔王の最後の死闘が、地表より遥か高空で繰り広げられていたのだ。
そして……両者の壮絶な戦いは、幕を閉じた。
真・大魔王バーンと、勇者である竜の騎士ダイの死闘はダイの勝利で終わった。
バーンは最後の手段である『鬼眼王』に変化してまで、貪欲に勝利のみを求めた。
だが人々の絆がダイを勝利させ、孤高の王者は遂に堕ちた…。
数多くの流星が地表に落下していく様は、余りにも幻想的な光景であった。
自身の身体が砕け散っていく様を、バーンは妙に冷めた目で見つめていた。
胸の鬼眼は一刀両断され、既に下半身は消滅。
徐々に石化して砕け始める自身の肉体を見て、妙な感慨を持ちながら……。
彼は意識が消える前に、一人だけ如何しても話したい男が居た。
残された最後の力を振り絞り、バーンは自らの意識を男へと繋げる。
『……聞こえるかな…ポップよ?』
「げっ?…な、なんでテメエの声が…まさかダイのヤツ?」
『ふふ…残念だったなと言いたい処だが、生憎だが余の負けだ』
「なっ?…ダイのヤツが…バーンに勝ったああああ?」
『余の身体は最早、崩壊寸前な有様だ。御主は勝ったのだ…この大魔王バーンに…な』
「え、えらく殊勝じゃねえか…大魔王さんよ?」
『余は強き者、力有る者を高く評価しておる。
ポップよ…確かに止めを刺したのはダイだが、余が負けたのは御主にだ』
「お、俺ええっ?」
『死神も申しておったがな…一番成長したのは御主だ。
だが残念でもある…今の御主なら、余も欲したのは間違いあるまい。
ただの人間で在りながら、其処までの力を会得した御主をな』
「て、照れるじゃねえか…畜生」
『ふむ、此れが死というものか…何とも不可思議なものだな。
余が生きて早や10万年もの歳月が流れたが、最早この身体も終わりか。
ふふふ…人間とは短い生涯を、かくも熱く生きるものとはな。
ポップよ、なかなかに人間とは面白い生き物だな。
まもなく余は消滅するが、くれぐれも愚者共に気を付ける事だ。
とかく異分子を排除しようとするのが、人間という生命体だからな』
「そ、そんなの…てめえに言われなくても充分に判ってらあ」
『ポップよ…余のカイザーフェニックスを…天地魔闘の構えを破った稀有なる男よ。
余は強者のみを評価してきたが、御主も決して例外では無い。
実に見事な戦いぶりであったぞ。
御主の先には苦難の道が続くであろうが、きっと御主ならば乗り越えられよう』
「バ、バーン…お前……?」
『道半ばで終わるは残念だが…余は何も後悔などして居らぬ…さらばだ……』
「お、おい?……そうか…てめえもハドラーのトコに行ったんか?」
ポップは星空を見つめながら独り言を言ってる様にしか周りには見えていなかった。
其の為に全員が少し退いていたのだが、意を決してマァムがポップに近寄る。
するとポップは…笑みを浮かべながら泣いていた。
「ど、如何したのポップ?」
「バーンの野郎から、死に際に挨拶と説教していきやがったぜ。
ったく余計なお世話だってのによ…ダイ、勝ったんだな…お前」
「ホ、ホントに?」
「ああ、マァム…俺たちはダイを待つだけだぜ」
「う、うん」
大魔王バーン…てめえ程つええヤツはいなかったぜ。
もう遣り合うのなんか二度とゴメンだ… 命が幾つあっても足りやしねえぜ。
でもよ…何とも妙な気分だぜ…少しばかり寂しいなんてよ。
てめえは地獄行きが確実だろうけど、ちったあ安らかに眠れたら良いよなあ?
一つの長い戦いは、ようやく終止符を迎えた。
此の後で、死神の企みの為に一つの悲劇が起こるとしても…最早、バーンにとっては何も関わりが無かった。
バーンは意識が消えていくのを感じながら、何故か安らかな気分であった。
其の後、バーン自身が意外な出来事を迎えるなどとは想像だにせずに………。
「 大魔王の道標 」 第01話 『 悪夢の転生 』
一軒の家の洋間に寝かされている赤ん坊が、ふと眼を開けた。
にこやかに笑いながら一組の夫婦が、その様子を見つめていた。
夫の名は高町士郎、妻は桃子…赤ん坊の名は…?
「あら、目が覚めたのね」
「如何した桃子?」
「私達の子供が…なのはが起きたみたいよ」
「そうか…もう私達が見えているのかな?」
「はっきりと認識出来てるかは判らないけど…」
「しかし大人しい子だな…なのはは、俺よりも桃子似かな?」
「士郎さんは、寡黙というより話すのが不器用なだけでしょう?」
「ぐ…」
「ふふ…」
…まさかとは思ったが、余は記憶を持ったまま転生した様だな。
いや…何者かの手で、無理やりに余は転生させられたのだろう。恐らく神々の力であろうが。
ふふ、まさか余が人間に為るとはな…此れ程に酷い喜劇は有るまい。
よもや余が人間に…しかも女人に生まれ変わるとは酷い冗談だ。
神々も、余への嫌がらせの度合いが酷すぎよう。
まあ余も、マザードラゴンを含め色々と神々に嫌がらせをしていたのだから当然の事か。
余の半永久だった寿命が、精々百年といった程度に為ったのが如何にもな話だ。
だが此の身体…余の魂のせいか、元々の資質かは判らぬが普通では無いな。
かなりの魔力を感じる上に、何故か魔族の魔力核まで存在して居るとは。
何れにせよ、此の赤子の身では何も出来ぬ。
動ける様に為るまでは、色々と考える事とするかな……。
其れから…4年の歳月が流れ去った。
高町なのはという一人の少女として新たな生を受けた大魔王バーン。
身体に負担を掛けぬ程度に鍛えつつ、彼女は多くの情報を欲していた……。
時の経つのは早いものだ…。
つくづく此の身体に為ってから、そう思えて為らぬ。
最近は、話し方を気をつけながら猫を被る演技が上手くなった気もしないでもない。
余り襤褸が出ない様に、出来るだけ無口で内気を装っては居るのだがな。
母の桃子は喫茶店『翠屋』を営んでおり、兄の恭也と姉の美由希も手伝っていた。
恭也と美由希の二人は、父の士郎から「小太刀二刀御神流」を教わっている。
余も其れを見よう見真似で隠れて修行して居たら、あっさり父にバレて扱かれ始めた。
血反吐を吐く修行は別に何とも思わぬのだが、なかなかに厳しいモノだったぞ。
3歳児に行う修行なのかと疑問にも思ったのだが、此の一族は普通では無い様だ。
其れにだ…父の初見では、如何やら余には格闘家の資質が在るらしい。
他に槍術も光るモノが在ると見抜かれた…コイツは本当に人間なのか疑問だ。
余の前世で、確かに槍とも言えなくも無い『光魔の杖』を使っていたのは確かだからな。
余の最強だった肉体は攻防一体を実体化した、完璧に近いものでも在った。
だが、今の余は魔族では無い…人間の弱い幼児の身体でしかないのだ。
以前とは比べ物に為らぬ身体なのは、此の余自身が一番に判っておる。
余は、常に力を欲した。
力こそが正義、力無き者は無力でしか無い存在なのだと。
だがポップとダイに敗れた事で、少し見方が変わった様だ。
アレは、余にとって初めての敗北だったからな…。
前世の余が物心ついた頃には、生きる事=戦いの日々だった。
気付くと、何時の間にか魔界の神とまで呼ばれる様に為っていた。
魔族は、魔界で常に戦いに明け暮れる日々を過し続ける。
それに余には身内など存在しなかった…余を生んだ母も、父も幼き頃に殺された。
力が無ければ生きられぬ世界…欲望に満ちた世界…其れこそが魔界だ。
血の歴史が神々の忌避を呼び、魔界は地下深くに封じられた。
闇の世界の中で…余は力と共に、常に光を求め続けた様な気がする。
だからこそだろう…余が地上を吹き飛ばそうなどと考えたのは。
余が見下していた人間という神々に護られた弱き存在を踏み躙る為に…。
大魔王と呼ばれる様に為った時、既に余は孤独だった…其れこそ王の宿命だ。
いや…ミストと出会うまで、ずっと余は一人だったし其れを何も思わなかった。
だが人の身と為った事が、余に感情という厄介なモノを齎した様だ。
此れは、余に対する神々の恐るべき辛らつ極まりない策謀であろうな…。
両親の愛情という薄っぺらい感情を受け続けるのは苦痛ではある。
しかし何か、余が敗北した要因を其処に見つけられる気がして為らぬ。
家族との日々の中、余は常に注意深く観察を続けていた…。
父はボディガードを生業としていたが、先日…仕事中に瀕死の重傷を負った。
母は、入院した父の看病と店の運営で手一杯の状況に陥った。
姉は昼は学校、夕方から夜は店の手伝いの毎日と為った。
兄は学校をサボり、まるで修羅の如く鍛錬を続けていた様だ。
状況が状況だけに余は、ずっと昼間は姉に連れられ保育園に預けられていた。
夕方、姉が学校から迎えに来ると家に戻り…ずっと一人の生活が続く。
家族全員が余裕の無い生活だけに、余に対して構う暇も無かったと言える。
此れを幸いにと、余は自らの身体を秘密裡に鍛錬していった。
幼児としては異常な戦闘力を身に備えつつあっても、以前とは比較にも為らぬが。
父が数ヶ月後に退院し、家に戻って来た。
余を一人きりにしていた事が、家族の心に深く負担に為っていたのだろう。
特に父と兄の余に対する構い方が、半端では無くなってしまったのだ。
鍛錬の厳しさが増すのは良く判らなかったが、すぐに膝に乗せるのは止めて欲しい。
しかも、しょっちゅう余の柔らかい髪を撫でては変にニヤついているのだ。
母と姉が妙に呆れて見てるのは、絶対に余の気のせいでは有るまい。
こいつ等、本当に頭が大丈夫なのか?
余が懐疑的に為るのは、至極当然の成り行きだっただろう。
父はボディガードを廃業し、喫茶店『翠屋』のマスターとして第二の人生を歩み始めた。
身体的に以前の能力が出せぬ事と、此れ以上は妻子に負担を掛けたくなかった為らしい。
兎も角、今は身体を鍛える事だ…今の余には其れしか出来ぬのだから。
人間の身体のひ弱さを理解してはいても、忸怩たる焦りに近い思いを抱きながら……。
そして2年余りが過ぎた…
余は6歳の誕生日を迎え、それから直ぐに桜の季節と為った。
余は小学生に進学し、私立聖祥大附属小学校に入学した。
人間を観察し、まだ良く知る必要が有るだろう…如何なるにせよ。
しかし此の様な教育機関が在るとはな…なかなかに刺激的だ。
余は知識欲に飢えている処が昔から在るせいか、特に昼休みなどは図書室に良く通った。
様々な欲は生命体ならば須らく持っているし、余も知識に関しては貪欲を隠さぬ。
そんな余を見て、何故かパソコンとやらを父が与えてくれた。
インターネットで得られる知識は面白いが、其の情報が玉石混交なのも仕方ないか。
プログラムの作成とかハッキングとかは実に刺激的で、何とも余の胸が躍るぞ。
所詮は短い命よ…電脳世界の王者とやらを目指すのも面白いかもしれん。
そんな或る日、昼休みに図書室へ向かう途中の事だった。
余は後に友人となるアリサ・バニングスと月村すずかに出会ったのだ。
如何やら揉め事の様だったが、最初は関わりあうつもりなど無かったのだが…。
金髪少女にリボンを奪われ、黒髪の少女が倒れるのを見て身体が動いた…何故だろうか?
何時の間にか金髪少女のリボンを持った手首を、余は後ろから握り締めていた。
黒髪の少女は泣きそうな顔をしながら、余を見て呆然としていたが。
そういえば黒髪の方は何時も一人で居たな…まあ余もだが(苦笑)
「ちょっと、ソレを遣こしなさいよ」
「キャッ…」
「へえ、結構綺麗なリボンね…ちょっと貸しといて…え?」
「他人の物を勝手に奪うとは、案外と酷い女だな?」
「な、何よ…アンタ?…手を離しなさいよっ!…痛いじゃないのっ!!」
「痛いか?…お前は、其の少女に同じ事をしたのだぞ?」
「え…?」
「傷付ける側は、傷付けられる側の心など理解は出来ないものだ。
何故、この様な理不尽な真似をしたのだ?」
「アンタ…誰よ?」
「私は高町なのはだ。
そういえば、お前を見た事が在る筈だな…私と同じクラスか。
其処の少女も同じクラスの様だが…虐めか?」
「ち、違うわよっ!…わ、私は…ただ……」
「ふふ…素直じゃ無い性格か」
「こ、このっ!…馬鹿力女…痛いわよっ!!」
「彼女は肉体的以上に、心も痛がってると思うが?
其のリボンは彼女に取って大切なモノの様だからな」
「え?」
「ど、如何して…其れが?」
「君の眼が、そう語っていただけだ…眼は正直だからな」
此の高町さんって人、此のリボンを私が大切にしてる事を知ってたの?
確かに私には大切な、姉からのプレゼントのリボンだけれど。
何か不思議な眼をしてる人だな…何か、物凄い知性を感じさせる。
でも私と何処か似通ってる気がする…普通の人じゃ無い様な?
「他人の物を勝手に持って行くのは、明らかに犯罪行為だ。
だが…お前は裕福そうだし、彼女への虐めにしては動機として弱そうに見える。
つまり、お前は本音を上手く言えない実に不器用な女だという事だな。
まあ私も他人の事を言えた事では無いが…其の辺は気にするな」
「な、何で…そんな事が判るのよっ!?」
「お前の眼だ」
「眼?」
「何かを躊躇してる臆病さが、お前の眼に垣間見えるのだ。
こんな事をしたい訳じゃないのに、上手く言えないもどかしさといった処か。
お前は頭は良さそうだが、感情表現が苦手と私は見たが?」
「こんな短時間で、如何して眼ぐらいで私の事が判るのよっ?」
「ふふふ…眼ほど己を語るものは無いぞ?
お願い、私を見てっ!
…と、お前の眼が叫びを上げているしか私には見えないんだが?」
「ええっ?」
「お前は頭が良いし、その回転も速そうだ。
だが素直に為れないのが悩み処で、生来の強気な面が出易い。
それだけに他人からは誤解されやすいのは、優秀な者が持ち易い欠点だ」
「あ、あのねえ…随分と酷い事を言ってるけどさ?」
「良く有る思考の落とし穴なんだが、強ち間違って居るまい?
一応は、此れまでのお前を観察しての結論でも在るが…最後は勘だな」
「か、勘って…変な娘ね、アンタって」
「少しは落ち着いた様だな…手首を握って悪かった、謝罪しよう」
「あ、うん…私も彼女を倒しちゃったから…貴方、ゴメンね。
別にリボンを取り上げるつもりじゃなかったんだけどさ。
何時もオドオドしてたから、少し気になってたのよね。
一度ゆっくり、アンタと話をしてみたかっただけなのよ」
「あ、うん…私、余り他人と喋るのが慣れてなくてゴメンなさい」
「さて…仲直りには握手だ」
余は、二人の手を強引に握らせた。
二人共に顔を赤く染めたが、良く判らんな。
そのまま余は立ち去ろうとしたのだが、瞬時に二人に回りこまれた。
この二人、余の動きを止めるとは……本当に人間か?
「ア、アンタ何処に行くのよ?」
「何処って図書室だが?」
「挨拶ぐらいしなさいよねっ!」
「ちゃんと私は名乗ったぞ?…お前の名は聞いてないがな」
「アリサよ…アリサ・バニングスッ!」
「アリス・バーニング?…直情径行な名を体で現しているでは無いか」
「ア、アンタねええ?」
「ふっ、唯の冗談だ」
「ホント……良い性格してるわね」
「家族からは、私が天使の様だと表現されて困っているのだ…ふふふ」
「はあ、アンタには口じゃ適わなそう」
「あ、あの…私、月村すずかです」
「高町だ」「お、お願いが有るんですけど」
「私にか?」
「お友達に…為ってくれませんか?」
「月村…さん、友達は選ぶべきだぞ?…考え直した方が君の為だ」
「彼女は君で…私は、お前扱いって少し酷くない?」
「あの…ダメ…ですか?(半泣き)」
「…女の涙とは反則行為だぞ…私などで良ければ好きにするが良い」
「う、うん!(微笑)」
「ふ、二人共に無視って酷いじゃないのっ!」
「ああ、済まないな…アリス」
「アリサだってええええのおおっ!!」
その時…凄い速度で、すずかはなのはの手を握り締めた。
なのはは其処に強烈な違和感を覚えると共に、何かを感じ取った。
この月村という娘、如何やら普通の人間とは違う様だな。
恐らくは、異能者の可能性が高いか。
万力みたいな握力をしている…普通の娘なら手が圧し折れるぞ。
まあ此れも一興、少し流れに身を任せるのも良かろう。
そしてアリサも、二人の手の上に自分の手を添えてニンマリと笑う。
如何にも悪巧みって笑みでは有ったのだが…。
「はい、私もね」
「お前もか…だが私には変な趣味などは無いぞ?」
「そんなの私も無いわよ…何かアンタと一緒に居たら面白そうだもの」
「ふう…好きにしろ」
如何やら余に、人間離れした友人?が二人出来てしまった様だ。
此の二人とは意外に長い付き合いに為るとは、此の時は思ってもみなかった。
其れから、小学生としての多忙な毎日が始まった。
朝と晩は兄と姉に扱かれ、昼は学校の図書室、夕方は図書館が余の日常に為っていった。
様々な知識を得る為、歴史だけでなく医学、科学、様々な書物を読み耽ったものよ。
実際のところ、学校の授業など寝てても答えられるレベルでしかないとは予想外だ。
ネットで調べ回ったせいか、知ってる事ばかりなのが玉に瑕だったがな。
元々は魔族の睡眠時間が短い為に、余は一日2〜3時間程度しか寝ていない。
魔界とは、常に油断が死に直結する殺伐とした世界だ。
其の為に熟睡などしていれば、すぐ己の死が訪れる。
弱き者は敗れる世界だっただけに、此処は何とも微温湯では有るが…。
此の身体も余の魂に引きづられて居るのか、実にタフに出来ている。
どれほど過酷な鍛錬をしても、身体の回復度が異様に早いのだ。
だが父も兄も姉も似た様なものだから、一族共通なのやもしれぬ。
此の謎は、何時か解明する必要が有るだろう。
そして其れはアリサも、すずかにも言えるかもしれない。
如何にも動物的な勘が鋭いというか、あの二人は実に危険察知能力が高いのだ。
普通なら、何度も事故に巻き込まれてる場面に出くわしているのだがな。
誘拐されそうに為った事も一再では無いらしいが……全く何者なのだ?
如何やら、余の周りには異常な者が集まり易い様だ。
なかなかに余を楽しませてくれるものよ。
そもそも刺激の無い生活など、何も面白くは無かろう?
さて…今日も良い天気だ。
また屋上で、母特製の弁当を正味させて戴くとするか。
やはり何処の世界でも美味いモノに国境は無いのが良く判る。
母のシュークリームは天下一品だからな…余の好物なのだ。
すずかとアリスの二人と一緒なのが既に定番と為った様だが…。
ほう…大魔王に有るまじき軟弱と申すか?
ふふふ…貴様、其れを余の母に言ってみると良いだろう。
きっと地獄を垣間見れる事、疑いあるまい。
何しろ母は、此の大魔王を恐怖させた初めての女人なのだからな?
イラナイと言った時は、余の背筋が凍る程の殺気だったのだぞ。
此れが……恐怖というものか。
人間、侮り難し。
「如何かしたの、なのは?」
「おっと…そろそろ弁当を食べないと昼休みが終わるぞ?」
「なのはってホントに何時も冷静なんだから(苦笑)」
全く此の娘は、老成し過ぎたところが有りすぎよねえ。
中身は老人なんじゃ無いかって思うくらいだもの。
頭も良いし、運動神経も良いし…まあ少し天然だけどね。
でも、此の娘って自分が可愛いって絶対に自覚してないよね。
武道を習ってるって言ってたけど、喧嘩しても凄く強いのよ。
喧嘩を売るバカが何人か見たけど、あっという間に倒しちゃったしさ。
こうしてる時なんかは、普通の可愛い女の子なんだけど。
「如何したアリス?」
「な、何でもない…って、私はアリサだってえのおっ!」
「おいおい、余り怒るばかりだと血圧が上がるぞ?」
「上げてるのは誰のせいだってのっ!…まあ良いけど如何したの?」
「ああ、母の事を少し思い出してな…怒らせると実に怖いのだよ」
「へえ…意外ね、何時も優しそうな人なのに」
「知らない方が良い事は、世の中には一杯在るモノさ」
「ああ成程ね、了解…って、すずか?」
「えっ?」
「アンタってボ〜っとする事があるけど、如何かしたの?」
「な、何でもないよ…アリサちゃん」
アブないアブない…まさか、なのはちゃんの首筋が美味しそうだったなんて言えないよ。
でも一度、なのはちゃんの血を飲んでみたいなあ。
何かロマンスグレーの渋い叔父様みたいな年輪を感じさせるんだ。
変だよね…如何してなんだろ?…なのはちゃんて、私と同い年なのに。
そして、なのはは初めての夏休みを迎える。
だが学校に行かないだけで、生活は余り変わりが無かった。
逆に、学校代わりに昼間に図書館に行くのが常態化した事だろうか?
其処で彼女は、自分の運命を左右する一人の少女と出会う事に為る…。
なのはは偶然、一人の車椅子の少女が本を取るのに苦労するのを見掛けたのだ。
「あかんなあ、手が届かへん…どないしよか?」
「如何した?」
「え?…ああ、あの本を取ろうとしてたんやけど…」
「此れか…如何ぞ」
「すんまへん、助かりましたわ」
「車椅子では、高い処の本が取れないのが当然だ。
すぐ傍の誰かに頼んだ方が良いだろう…ではな?」
「あ、ちょっと待ってえな」
「何か私に用でも有るのか?…私には無いが」
「うわあ…エラい自己中さんやわ」
「思っていても、其れを直接に本人には言わぬ事だ」
「はあ…可愛い顔をしとんのに、毒が凄いわ。私、八神はやて言います」
「名乗られたか…まあ良い、私は高町なのはだ」
「へっへ〜ん、逃げ損なった?」
「…確かにそういう事だが、なかなか頭の切れる娘だな」
「アンタ幾つやねん?」
「6歳、小学1年だ」
「同い年かいな…私は先月に7歳に為ったばっかなんや」
「歳に似合わず、妙に落ち着いている狸娘だな…お前は?」
「た、狸って…其れは酷いでえ?」
「褒めたつもりだが?」
「本気?」
「ああ」
うわあ…此の娘って、天然さんかも判らへんわ。
変に落ち着いてるけど、目の離せへんところ満載って感じやわ。
妙に気に為る娘なんは確かやし、友達に為ってくれんかな?
でも、私…こんな身体やさかいムリかもしれへんなあ……。
「しかし…そろそろ夕方か、早いものよ」
「早いものよって、何か言い回しが年寄り臭いで?」
「そうか?」
「そやで」
「ふむ…気をつけるとしよう。ところで迎えの御両親とかは、まだ来ないのか?」
「あ、あんな…もう私には家族が居らへんのよ」
「…如何いう事だ?」
「1年前に事故で…な、両親が死んでしもたんや」
「ならば親戚とか同居している者は、何故迎えに来ない?」
「ううん…私、一人暮らしなんよ」
此の歳で一人暮らしとはな…何か有るのは間違いあるまい。
さっきから妙な監視の視線を感じるのは、そのせいであろう。
此の娘、何か秘密が有りそうだな……。
「私にはイギリスちゅうとこに、後見人の叔父さんが住んどんねん。
でも忙しい人みたいで、なかなか日本には来れへんのよ。
毎月、生活費を送ってくれとるちゅうか、父の遺産を管理してくれとんねん」
「成程な…お前の家は此処から遠いのか?」
「ううん、すぐ其処やで」
「近いのならば送って行こう…帰るついでだ」
「ええのん?」
「別に構わん」
「ありがと…ありがとな…なのはちゃん」
「大した事では無いから、余り気にするな…八神」
「はやて」
「ん?」
「私は、は・や・て・やで?」
「ふふ…判った、はやて」
「ヨロシイ…うふふ」
監視者の殺気が強まったか…だが、温いモノよ。
だが此の車椅子の幼い娘に、一体何が有ると言うのだ?
確かに娘から魔力は感じるが、妙な違和感も有るのが気に為る。
すぐに仕掛けて来る気配は無さそうだがな…注意を要するか。
はやてを余は自宅まで送っていったが、監視者も追跡しているのを感じる。
相手からも魔力を感じる処を見ると、此の世界にも魔法使いが存在する様だ。
少し意外であったな…余の周囲には、魔力を感じた事など無かったのだが。
はやての周りには、如何やら結界らしきものが張られている。
しかも、はやての家の周辺にも認識阻害らしき結界が張られているとはな?
気に為った余は、はやて宅の周辺を少し探ってみた。
如何やら余とは魔力の性質が少し違う様で、相手は気付いていない様だ。
余の使う魔法と、此処の結界や監視者の魔法とが違うのは間違いない。
ふむ…一つアドバンテージだが、油断は禁物だろう。
にしても監視者が猫とはな…? 如何やら変化して居る様だ。
余も鬼眼が有れば殲滅など容易いのだが、無い物強請りはムダなだけだ。
となればメダパニ辺りで、猫に幻覚を見せて事故というのが妥当だろうな。
はやてを送り届けた後、連絡先を教えてから帰途に着いた。
愚かにも案の定、余の後を猫が付けてきおった。
ふふふ…大魔王からは逃げられない事を、愚者に思い知らせてくれよう。
余は偶然に気付いた振りをして猫に近づき、無詠唱で後方からメダパニを掛けた。
混乱した猫は余が近づいて行くと、視線を逸らし慌てて余の前から走り去った。
なぜ目眩がするかは判らない様だな…愚かなヤツよ。
ふらふらし始めた猫は、道路に飛び出して大きな車に轢かれてしまった。
なかなかの重傷だな…ほう、あの身体で何処かに転移したか?
車に轢かれた猫が消えたと少し騒ぎに為っているが、何も判るまいて。
此の世界では、如何やら魔法が無いのだから…の。
如何やら別の異空間に行った様だ…追跡はムリだが、あの感覚は既に覚えた。
最早あやつが近くに来た時は、すぐに余には判る。
転移方法が余のルーラとは別物だが、魔法体系が違うのだからムリもあるまい。
まだ余はルーラが使えぬからな…大分、以前の魔法は使用可能に為ってきたが。
だが全ての魔法が使える様に為るのも時間の問題なのは、身体で判る。
何か切欠が有れば、以前の魔力に限りなく近づける気がするのだ。
はやてが何らかの鍵を握っていると感じるのだ…余の勘は良く当たる。
其の頃、車に轢かれた猫は瀕死の状態で何処かに転移、謎の娘の治療を受けていた。
猫に治癒魔法をしながら、謎の娘は呆れ顔だったが。
「如何したのよ一体…此の酷い怪我は、何が有ったの?」
「デカイ車に轢かれた…」
「あのねえ、ドジ踏んじゃダメでしょ?」
「ゴメン…監視してたら変な娘が現れて、そいつ追跡してたら……」
「車に轢かれたって…アンタ、バカァ?」
「何も返す言葉が有りませんです…はい」
「それで、その娘って?」
「魔力の全く感じられなかった普通の子供だったんだけどね…」
「如何したの?」
「妙に勘が良いっていうか…偶然かも知れないんだけどさ。
私に微笑みながら近づいてきたから逃げたんだよね。
でも如何やって私に気付いたんだろ?」
「単なる猫好きな娘だったんじゃ無いの?
猫好きな人間って猫が近くに居たら、すぐ勘付くでしょう?
どちらにせよ監視対象に近づく者は、遠ざけるか排除するのよ?」
「そんなの判ってるって…はあ」
疲れてるのかなあ、私。
あん時って頭がクラクラしてたし、そうかもしんないよね。
此の二人は何を目論んでいるのだろうか?
何故、はやてが監視されているのか…此の時点では知る者は殆どいなかった…。
あれから余は、はやての家に目立たぬ程度に訪れる様にした。
余り訪問が頻繁だと、如何しても監視者の警戒を呼ぶからだ。
監視の眼は、どちらかと言うと家の外に対してが強い様だ。
通常では、幼児の一人暮らしなど近所で目立たぬ筈が無いからだ。
何しろ女という生き物は、世間話という名の噂話が大好物だからな。
其の情報網は、なかなか侮れぬものがあるのだ。
だが周辺のオバタリアン共から全く関心を寄せられない自体がおかしい。
かなり強い認識阻害の結界が張られているのだろう…余には効かぬが。
監視者の変化猫は、よく余にチョッカイを掛けてくる…全く暇な事よ。
だが何故か不思議と其の猫が事故に良く遭遇する様で、何とも気の毒な話よ。
よくよくツイておらぬのであろうな…罰でも当たったか、因果応報であろう。
ふふふ、実に楽しい気分だ…今日の猫は、どんな不幸に出会うのだろうな?
さて、はやて宅の庭で彼女は読書しながら日向ぼっこ中だ。
それを横目に、余は手刀か正拳突きの練習を行っておる。
最強の肉体を持っていたからこそ、余は無敵だった。
最強の盾と矛を兼ね備えるのは矛盾だが、近づける事は可能なのだ。
不可能と思った時点で、全ては無に帰すものだ。
ところで父の流派は、いわゆる暗殺剣の一子相伝だったようだな。
余も無意識だが初見で神速とかいう技を使ったらしく、其れが奥義の一つらしい。
余の身体が出来上がるまでは使っては為らぬと言われておる。
かなり身体に負担の掛かる技の様だが、必ずや余は奥義を会得してみせよう。
大魔王バーンの名に掛けてな…ふはははは。
「あんなあ、なのはちゃん?」
「如何した、はやて?」
「えらく楽しそうに身体を鍛えとるけど、ソレって何でやねん?」
「私は負けるのが嫌いなのでな…勝つ為には努力を惜しまぬだけだ」
「うわあ…物凄い負けず嫌いなんやね」
「勝利の栄光など、高が知れているものだがな。
他者の評価を気にはせぬが、私は常に力は欲しているぞ?」
「へえ…強さに拘りが有るんやねえ」
余の力への執着は、以前と何も変わらぬ。
此の人間の身体ではムダな努力やも知れぬが、怠惰は余の性分に合わぬ。
しかし…妙な予感がするな。
今日は土曜の為、はやて宅に初めてのお泊まりと為った…何故かは知らぬ。
はやては孤独だからとか母に言われたのだが、あの眼を見たら到底断れん。
友達は大事にしなさいとか何とか言われ、泊まりが強制されてしまったのだ。
断ろうとした余に寒気がしたのは、決して気のせいでは無いぞ。
此の大魔王に冷や汗を流させるのは、此の母だけだ。
母は強しとは、此の事やもしれぬな…成程、納得だな。
買い物に行った際、また猫が4tトラックに轢かれたのを見た。
最近は、轢かれる猫を見るのが余も増えたものだ。
しかも跳ね飛ばされ、そのまま電柱に激突とは不幸極まりない。
全く血塗れ猫とは、何とも哀れを誘うものだ。
余程に幸薄い猫なのであろうな…ふふふ。
にしてもタフな猫よな…また転移した様だが懲りぬヤツ。
はやてにしても嫌な顔をしているのは、当然の成り行きだ。
「げえ…また猫が轢かれたんかいな?…地面と電柱が血で真っ赤に為っとる」
「全く可哀相な猫が、最近は増えたものだ」
「冷笑を浮かべながら、そんなん言っても説得力あらへんで?」
「ふふふふ…はやての気のせいだ」
「なのはちゃんって、猫が嫌いなんやねえ?」
「全ての猫という訳では無いが、最近は少々鬱陶しいからな」
其の頃、某所でボロボロに為っている二匹の猫が居た。
半泣き状態でしたが…何とも哀れですな。
「アイツ絶対に疫病神だよお…もうやだあ(泣)」
「私も近づくのが嫌に為って来た。魔力が無いのに、あんだけ周りを不幸にする存在なんて…」
「まさかアイツってロストロギア?」
「ソレは流石に無いでしょうけど、でも余り関わりたくないよね」
「そうだよ…痛いよお(泣)」
買い物を終え、帰宅した二人は食事した後で…お風呂に。
泰然自若のなのはと、楽しそうなはやてであった。
悪夢の前の楽しい一時とも知らずに…。
「他の人と風呂に入るなんて、私も久しぶりやわあ」
「風呂など身体の不純物や堆積物を、ただ洗い清めるだけであろうが?」
「垢落としを、そんな風に言うんは…なのはちゃんくらいやろなあ」
「身体を清めるのは、悪くないとは思うが?」
「はいはい」
此の家全体がバリアフリー仕様だが、一人暮らしでは苦労を余儀なくされる。
はやては歩けないだけに、風呂は少し広く浅めの深さに出来ている。
下手をすれば溺れかねないだけに、蓋し当然の事であろう。
余は、はやてを抱っこしたら速攻で風呂に一気に叩き込んだ(な?)
充分に暖めた後、長湯で上せぬ様に風呂から引き釣り出した(No〜?)
そして、はやての身体を石鹸の泡で縦横無尽に席捲したのだ(は?)
ふふふ…はやても此れで綺麗な肌に為ったであろう事は疑いあるまい。
流石は余だな、完璧な仕事であろう…ん?
おお、はやてよ…此の程度で眼を回すとは情けない……。
「なのはちゃ〜ん…私の扱い…ちいと酷いと思わへんか?」
「アレ程度でか?…私は毎日の事だから良い鍛錬に為って居るぞ?」
「マジかいな…どっか変すぎやで、ソレ?」
「そうかな? 確かに私の家は、戦場と余り変わらないからな。
何故か姉だけは、断じて一人で入浴するぞ?
姉が言うには、兄には特に命や貞操の危険を感じるからだそうだが…。
私の場合は、母だけでなく父や兄と一緒に入浴する事も多いのでな。
母と一緒だと静かすぎて、面白みに少し掛けるのが難点だ。
何しろ父は化け物だから、私の手刀を簡単に白羽取りする技量が有る。
兄も俊敏だから簡単に正拳突きを避けるので、当てるのに苦労させられる。
まあ家の風呂は頑丈に設計されて居るそうだから、そう簡単には壊れんさ」
「あの〜…姉さんって幾つやの?」
「確か高校1年だった筈だな…兄は高校3年だ」
「そんな歳で、兄妹が一緒に風呂なんか入っとったらヤバいやんかあっ!」
「…そうなのか?
兄は姉と入りたがってるが…そういえば父もそうだな。
流石に母と兄の組み合わせで入浴経験は、私の記憶では無かった気がする。
私は両親と一緒も多いが、兄は姉だけでなく母とも入りたがっていたが」
「うわ…それメチャクチャにヤバイで?」
「男と女など性別以外に大して変わらんだろうに、私には判らん話だ。
そういえば父と兄が、それが理由で何度か死闘を繰り広げていた事が有った。
実に仲の良い父と兄だと思わんか?」
「何処がやねんっ!」
あかん…なのはちゃんって、どっか変や。
アレで喜ぶんやったら、私は変態の烙印を押されかねへん。
私は絶対にM属性なんか無い筈や…あったら困る。
なのはちゃんって家で、どんな扱いをされとんのやろか?
罪悪感が欠片も見えへんって事は、自分もされとるんやろけどなあ。
うん、高町家のお泊まりだけは絶対にせんとこ。
特に風呂なんか絶対に危険や。何か、命が幾つあっても足りへん気がするで。
妙な決意を固めたはやてであった……。
季節は巡り、なのはは翌年の3月15日に7歳の誕生日を迎える。
その前日が土曜日だった為、余は…はやてにお泊まりを懇願された。
何でも余の誕生日を祝いたいらしい…。
誕生日を祝うというのが余には判らんのだが、高町家へのお泊まりだけは嫌らしい。
何故なのか、其の理由は不明だ(当たり前だと思うが?)
はやて手製のケーキは、なかなかに美味であった。
料理も、あの歳でアレだけ出来るとは侮れん。
将来は、余の専用料理番にしても良いか。
如何せ嫁の貰い手など皆無であろうから、不憫な娘への就職口じゃな。
母には適わぬが、美味しい料理であった。
余は満足じゃ。
大きなお世話とか幻聴が聞こえた気もするが、余の気のせいであろう。
寝室に行くと、妙な気配に気付いた。
以前から在った気配が、今日は妙に強くなっておるな。
また、あの鎖の本であろうな。
罠の可能性が高いので、はやてに内緒で何度かバシルーラで飛ばしたのだ。
だが何故か、何時の間にか元の場所へ戻って来るのが問題なのだ。
あの監視猫共の狙いも、如何やら此れの可能性が高いと余は睨んで居る。
其のリスクを軽減したかったのだが、如何にも上手くいかん。
大魔王の名が泣くというものだが、まだ力が不足しておる。
早く力を付けねばならぬ…余は大魔王なのだから。
「なのはちゃんなあ、変な顔をして如何したん?」
「ああ、あの本が気になってな」
「アレかいな?
確かに鎖で封印されてるみたいで、ケッタイな本やわ。でもソレが如何かしたん?」
「今日は特に変な感じがするんだ」
「へえ…でも唯の本やんか」
「なら良いのだが…ん?」
「え?」
時計が12時に為った…其の時だった。
いきなり本が浮かび上がり、黒き瘴気の様なものに包まれたのだ。
「な、何で本が浮かんどんの?」
「はやて…本から離れろ!」
「あ、うん…な、なのはちゃん??」
「何っ?」
「な、なのはちゃ〜〜〜〜〜〜ん???」
いきなり余は本の瘴気に全身を包まれ、何処かへと移動させられるのを感じた。
ふむ、やはり此の本は魔導書か何かの類であったな。
何が起動を誘発したかだが、確か時計は3月15日午前零時に為った時だった。
ひょっとしたら此の本は、余に何らかの関わりが有るのかもしれんな。
余は、暗闇の中を何かに引寄せられる様に何処かへと向かっていた………。
予告
余は、謎の空間に取り込まれた…其処に何が待つのか?
そして…はやてを監視する謎の猫達の正体は、未だに判らない。
紆余曲折を経て、余は何か事態が動き始めたのを感じていた。
誰かが救いを呼ぶ声に、余は如何動くべきであろうか?
次回 『 運命の再会 』 大魔王からは逃げられない
12.03.22初稿