神根島…そこは太平洋に浮かぶ、誰一人も住まない孤島の一つの筈だった。
その島の洞窟奥で、崩れかけた神殿の門の前に、二人の男が対峙していた。
かつては親友だった筈の…だが何処かで道を違えてしまった二人の男。
最早、こうするしか二人にとって他に道は全く無かったのだろうか?
理性よりも…感情が優先してしまった結果でしかないのか?
狂気の表情を双方ともに浮かべ、互いに向け合う銃口という名の凶器。
最早ルルーシュにとっても、スザクにとっても、互いに対する憎悪しか残されていなかった。
その二人の傍で一人の女性は、それを呆然と見つめる事しか出来なかった。
カレン…彼女は、ルルーシュがゼロであったという衝撃の事実に打ちのめされていた。
彼女は何度もゼロを疑った…だがカレンは、それでもゼロを信じたかった。
やはり自分は騙されていたのか?…それは、余りにもショックだった。
ゼロこそ自分を導いてくれる存在だと、彼女は固く信じたかったのかもしれない。
彼女はゼロを強く慕い…いや、心から深く愛していたのだろう。
自分を導いてくれる存在、父性をゼロに求めていたのではなかったのか?
だからこそ彼女には、狂気の二人を止める術もなく見つめるしかなかった。
まるで息が止まらんばかりの重苦しい圧迫感が洞窟内を渦巻く。
一瞬、はたまた永劫に続くかに思われた時間に終止符が打たれる。
何かを暗示するかの様に、天井より地面に水滴が…墜ちたのだ。
洞窟にポチャンと響く水音が鳴り響き、そして……遂に静寂が途切れた。
二人の狂気の叫びが轟く最中、カレンもまた悲鳴を奏でた。
運命を引き裂く銃声が洞窟内を轟く…反響音と共に。そして閃光が三人を包み込んで終止符が打たれたのだった………。
「スザク〜〜〜っ!!」
「ルルーシュ〜〜〜〜っ!!!」
「もう止めて〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
俺は躊躇わず引き金を弾いた…違わずスザクの心臓を狙って。
銃の扱いなど得意では無い俺だが、隠れて訓練してきたのは幸いだったな。
俺もナナリーも何時、命を狙われるか判らない日々だったのだから。
だがスザクは、俺の額を狙ったようだ。俺の頭が、衝撃で後方に弾き飛ばされるのが判る。
ああ…これは死んだなと実感出来た。爆破スイッチが入った感覚…これで、お前も俺と共に吹き飛ぶだろう。
そしてスザクの心臓を俺の弾が撃ち抜き、血を吐き倒れ伏す様も見えた。
何故か撃たれた痛みを全く感じなかったのが、俺自身も不思議だが。
存外、死ぬ時というものは、こんなものなのかもしれないな…。
スザク…あのバカは流体サクラダイトの事をハッタリだと思ったのだろう。
相変わらず直情な男だ…愚者だが、だからこそ俺は倒れるのかもな?
お前を相手にするのにブラフなど通用しないのは、この俺が一番知っている。
だからこその非常手段を用意したが、所詮アイツは唯の狂人でしかなかった。
戦略も戦術も無視出来る者になど、何も戦局は変えられない。
だが、策など愚直な者には通じないのを見切れなかった俺も、所詮は愚者でしかなかったという事だ。
ふ…全く無様なものだが、俺の驕りだったのだろうな。
ナナリー…済まない。俺は、お前を守ってやることが出来なかった。
済まなかった、カレン…せめて、お前だけでも助かってくれ…。
だが、あの至近距離では爆発に巻き込まれるだろうな…本当に済まなかった。
もし、お前に謝れるものなら…今度は地獄で会おう。
偽善かもしれんが俺は結局、お前を利用しただけで終わってしまうのか。
爆発に飲み込まれ、身体が消えていくのが不思議と自分で判るとは…。
ふふ…俺は死ぬのだろうな…意識が薄れていく。 結局、俺は何も出来なかった。
もし…もう一度、やり直せたら…今度こそ…。そして、こうなる前に…今度こそスザクを、この手で殺すのに!
ようやく俺は解った…アイツと並び立つ事など不可能だということを。
所詮、アイツは俺にとって敵でしかないのだから…。敵にナナリーを託そうなど、本当に愚か者だな…俺は?
真っ黒な世界に包まれていくルルーシュ。意識を失いそうになりながらどこかに引き釣り込まれて行く。
彼が気付くと不思議な空間の中にあった。それは妙な浮遊感。どこが上で、どこが下なのかも解らない表現できない感覚があった。
無重力を味わったことなどないルルーシュにとってはムリもないことではあった。
全てが漆黒の虚無の空間、まるで自分の心を蝕むような冷涼たる静寂のみの世界。
「ふ…俺は死んだようだな。この黒い地獄で苦しめとでもいうのか? 誰もいないか…この静寂の寂寥たる真っ暗な世界で…ん、何だっ?」
独白するルルーシュは妙な圧力を感じた。身体だけでなく精神的な圧迫感。
何かが来る。そう感じたルルーシュは周りを探る。巨大な気配が…来る?…何者かの声が、その空間に響き渡る。
その圧力を堪えながら、ルルーシュは必死に平静を保とうとした。
『黒き覇王よ…此度は、しくじったな』
「だ、誰だ?」
『私か? さてな…だが、お前とは縁がある者とだけ言っておこうか』
「俺と縁が有る者…だと?」
『今の、お前は肉体が既に消失してしまった…だが、それでは私も困るのでな。そこでだ…お前に今一度のチャンスをやろうと思う』
「チャンス…だと? どういう意味だ」
『ルルーシュ、お前は妹ナナリーを救いたかろう…違うかな?』
「ナ、ナナリーを?」
『そうだ…ナナリーも、あの爆発に巻き込まれて死んだ』
「…そ、そんな…」
『私も気付くのが遅れたのでな…だが、これは何かと都合が悪いのだよ』
「お前の都合など、俺の知った事じゃない」
『ふふ…ならば、はっきりと言っておこうか。お前、自らの罪で妹は死んだ! そうだ! お前が殺したのだ!』
「や、やめろ! やめてくれ〜!!」
『私は事実を言っているに過ぎないのだがな? それに私は、C.C.(シーツー)と呼ばれている女とも、縁があるのだよ』
「あ、あの女とだと?」
『彼女は、お前のパートナーなのだ…魔女ではあるがな』
「お前は…一体?」
『それはな…ふむ、如何やら時間切れだな…なあに、またすぐ逢えるだろう』
「な…うわあああああああああああああああああああああ……」
『お前が目覚めた時、驚愕するだろう…その意味を、よく考える事だ』
それと同時に俺の意識は真っ白になっていった。一体、何者なんだ?
ナナリー…本当に済まない…お前を助けられなかったのか。
俺は…俺のせいで、お前を殺してしまったのか…俺は如何すれば良かったんだ……?
ルルーシュは、漆黒の闇の底へと落ちて行った…意外な出口へ向かって。
それはルルーシュにとって、血に塗れた修羅への一本道であった………。
「 ギアス真世界 DesireStrikerS R1 」 Stage.01 『 魔神 復活 』(改稿版)
皇暦2010年8月10日、神聖ブリタニア帝国は、日本に宣戦布告した。
極東で中立を謳う島国・日本と、世界唯一の超大国・神聖ブリタニア帝国。
日本本土決戦に於いて、ブリタニア軍は実戦で初めて量産型人型自在戦闘装甲騎第四世代「ナイトメアフレーム(KnightMareFrame)」
グラスゴー(Glasgow)を投入。
その威力は、ブリタニア軍・日本軍双方の予想を遥かに超え、日本側の本土防衛線は尽く突破されてしまったのである。
日本は占領され、帝国の属領となり、自由と、権利と…そして名前を奪われた。
エリア11、その数字が敗戦国・日本の新しい名前だった。
日本人は「イレヴン」と蔑まれ、ブリタニアの総督により支配された。
それは日本人にとって余りにも屈辱的な、奴隷の日々の始まりであった…。
終戦7年後、2017a.t.b.(皇暦2017年)ブリタニア人居住地、トウキョウ租界。
一台の大型トラックがブリタニア警察に追われていた…謎の物体を積んで。
警察は、毒ガス強奪犯だという報告を受けていた。クロヴィス総督直属のバトレー将軍は、軍の追跡出動を警察に告知した。
そして同じ頃、その近くを一台のサイドカーが走っていた。ルルーシュは身体に風を感じながら、その意識を取り戻す。
「う…俺は…一体?」
「あれえ、ルルったら居眠り? 俺がバイク運転してるってのにさ」
「リヴァル?…ここは…何処だ?」
「ええ〜?…やだなあ、チェスの代打ちしてたんじゃないか…その帰り」
「リヴァル…今は…一体…何時だ?」
「今? そうだなあ、まだ午後1時前頃じゃないかなあ…?」
「違う…年月だ」
「あのさ…何を寝惚けての? 今は皇暦2017年9月9日じゃん」
「何っ!?」
半年前だと? 俺は…あの時、神根島で死んだ筈じゃ…これは如何なっている?
まてよ?…これは…まさか、ここは過去の世界だとでもいうのか?
ルルーシュが考え事をしていると、バイクの後ろに巨大なトラックが迫る。そのトラックはバイクをかわそうとして急ハンドルを切ってしまう。
その為にコントロールを失い、操作が出来ずに別の車線に突っ込んでしまった。車線を乗り越え、敷地で建物に衝突し…ようやく停車した。
「とと…あらあら危ないな〜、ムチャクチャな運転してるよ」
「まさか…まさか…まさか?? リヴァル! 止めろっ!」
「止めろも何も…今ので俺のバイクが故障だよ〜(苦笑) でもよルルーシュ…アレって…あの事故って、俺達のせいなのお?」
「ふ、まさか…向こうが、勝手にハンドル操作を誤っただけだ」
「そ、そうだよな。俺達に責任なんか無いよな?」
「事故の要因になったバイクを運転してたのは、リヴァルだろう?」
「ちょっと…俺を見捨てないでくれよお〜〜〜(涙)」
ふう…リヴァルのヤツ、俺が変だとは思わなかったようだな。上手く誤魔化せたようだが…まさか、過去へ戻ってきたとはな?
とても信じられんが、取り合えずは現状把握に努めないといかんな。
今のところは、以前と同じ様に歴史は進行しているようだ。
にしても、また野次馬連中か…どいつもこいつも。見てるだけで何もしようとしないブリタニアの屑共が…。
まてよ?…前と同じならばトラックの中のカプセルには、あの女が居る筈だ。
だが…今の俺にギアスの感覚は全く無い。仕方あるまい…危険だがアイツと、もう一度…逢わないとダメか。
力を手に入れる為に…力が無ければ、俺は何も出来ないのだから…。
ルルーシュは、急ぎ衝突し停止したトラックへと向かう。そして、トラックに辿り着くと感じていた…あの女が居る事を。
リヴァルは、それを見ながらバイクを押しながら、ぼやいていた…。
「ちょっと、ルルーシュ?? 何処に行く…あららあ、行っちゃった。
止めてほしいんだよねえ…むやみなプライドを発揮するのってさあ。
授業に遅れちゃうよ、困ったなあ…如何しよ…ああシンド…勘弁してよぉ」
ルルーシュは、運転席にカレンと、もう一名が居るのを確認すると荷台に飛び移る。
「おい、大丈夫か?(やはり居たか…どうやらカレンは大丈夫のようだな)」
見つけたっ! 私の…
今の感覚…やはり居るな、あの魔女。とにかくカプセルを開けないと。
急がないと、アイツが来るっ! 時間を一刻たりとも無駄に出来んっ!
この時、運転者がルルーシュの声に驚いたのかトラックを急発進させてしまう。
ルルーシュはトラック上のハッチを開けたばかりだったので、中に転落してしまう。
ぐ…こんなところまでも同じか。内側に梯子の一つぐらい付けておけ!
とにかく急がんと…いや、待てよ? 確か、このすぐ後にカレンが…?
走り去るトラックを呆れながら見つめるリヴァル。そのトラックを上空からヘリが見つけて、追跡を始めた。
「あららあ…ああいうのも当て逃げって言うんだろか? ルル大丈夫かなあ…トラックの中に入っちゃったけどさ、如何なるんだろ?」
「警告する! トラックを停車させよ!
今なら弁護人を付ける事も可能だ! ただちに停車せぬ場合は発砲する! ただちに停車せよ!」
それはバトレー将軍が追っ手で派遣した武装ヘリだった。
ズガガガ…射撃音が響き、トラックを追う武装ヘリが警告しながら機関砲で銃撃する。
トラックが必死にそれを避けようと、右左にハンドルを切りながら運転手が焦りの悲鳴を上げる。
「ぐ、軍まで出てきたのか? 拙いぞ…このままじゃ…如何するカレン?」
「そのために私が一緒に来たんでしょう? グラスゴーで出るわ! 麻布ルートからだと地下鉄に入れるから、そっちに向かって!」
「そ、そうだカレン…ここで、アレを使ってしまおう。ブリタニアの奴等に一泡を吹かせられるじゃないかっ!」
「ダ、ダメよっ! それじゃ虐殺じゃない! こんなところで、もしアレを使ったら…。
それに死ぬのは日本人が大半なのよ? そんな事、私達が出来る筈も無いじゃないのっ!」
「そ、そうだな…済まん」
カレン…ナイトメアで出るか…あの時のままだな。となると、すぐにジェレミアが来るな?
カレン達を冷静に観察するルルーシュ。彼は状況を把握しつつ、策を立て始めた。
そしてブリタニアの追っ手のヘリは、徐々にトラックを追い詰めていく…かに見えたが?
「ターゲットは租界からゲットーへ向かいます」
「よし! そのまま追い込め! クロヴィス殿下のご命令だ!」
「Yes! My Load!…ぐあああっ」
「ど、どうした? ヘ、ヘリが撃墜された?
あれはスマッシュホーク…ま、まさかナイトメアだとっ? なんでテロリストが、そんなものまで持っているんだ…ぎゃああっ!!」
トラックからワイヤーに繋がれた突起物状の爪がヘリを襲い1機撃墜した。
中から出てきたのはナイトメアフレーム・グラスゴー。追っ手のヘリは、次々と全機がスマッシュホークで撃墜されてしまった。
あっという間の出来事であり、カレンの非凡な才能の証左でもあったと言えるだろう。
相変わらず、良い腕だな…カレン。この時期なら、まだナイトメアの操縦など経験不足だろうに。
流石は、あの紅蓮を手足の様に動かしただけの事はある…相変わらず見事だ。
だが、それも奴が現れれば騎体の性能差は歴然…如何やら来た様だな、オレンジが。
いや…まだ、そう呼ばれては無かったな…ジェレミア・ゴットバルト。
そこへナイトメア・サザーランドを搭載したフロートが飛来する。それは、ジェレミアのサザーランドだった。
「やれやれ…何処から流れたナイトメアかは知らんが。旧型のグラスゴーでは、このサザーランドの相手では無い!
ジェレミア・ゴットバルトの名に懸けて、相手をしてやろうではないか。
皇帝陛下の情愛を理解出来ぬイレヴン風情に、有難い事だと思うのだな?」
降下し、カレンのグラスゴーを一方的に叩くジェレミアのサザーランド。騎体性能の差は如何ともし難く、カレンは防戦一方となってしまう。
そしてトラックも別のサザーランドが襲い、徐々に追い込まれて行く…。
カレンは必死でサザーランドを振り切り、逃げるしか出来なかった。
ようやくジェレミアを何とか落下する瓦礫を挟んで逃げ切ったカレンだった。
そんな最中、ルルーシュはカプセルを開け、久しぶりの再会を果たしていた。
黒き覇王と緑の魔女、運命の再会であった。彼女は目覚めると、いきなりルルーシュに抱きつき、口付けを交わした。
ルルーシュは、最初の契約の時と同じ光景を見ていた。その時、ルルーシュは王の…ギアスの力が戻るのを実感していたのだ。
終わりの始まりかな、ルルーシュ。蘇ったお前に力があれば生きられるか?
これは契約だ! 今一度…この世界では始めてだが…。
王の力を与える代わりに、私の願いを一つだけ適えて貰う。
契約すれば、お前は人の世に生きながら、人とは違う理で生きる事になる。
異なる摂理、異なる時間、異なる命、王の力はお前を孤独にするだろう。
お前には釈迦に説法な話だが…その覚悟は…有るか?
「ラグナレク接続! 神話を…再び起こすかぁ!」
あの外道な皇帝を倒せる為に、俺には必要な力なんだ! 今一度、結ぶぞ! その契約!
そして、今度こそ…あの男を倒す! 今度こそ…必ず!!
王の契約は…また結ばれた。またルルーシュは、ギアスの力を得たのだった。
それはルルーシュに取って、幸運なのか?…果たして不幸なのか?この時点では、まだルルーシュ自身にも判らなかった……。
「ふ…また逢ったな、ルルーシュ」
「まさか、逢って早々いきなり口付けしてギアスの能力を戻すとはな。だがC.C.(シーツー)…この俺が解るのか? 俺を覚えているのか?」
「ああ…私も気がついたら、このカプセルの中だったよ。まさか…あの御方が目覚めたとは思ってもみなかったがな……」
「一体、そいつは誰だ? そいつが俺を過去に戻したと言うのか?」
「そうだ。それは私もだが」
「は〜い、そろそろ、お話は、終わりました?」
「…誰だ?」
「始めまして。私はセインって言います、宜しく」
「セイン…6番目だと?」
「便宜上の名前なんですけどね。案外、気に入ってるんですよ。実は母さんの命令で、二人を迎えに来たんですよね」
いきなり二人の前に妙な戦闘服を来たルルーシュと同年輩の少女が立って居た。彼女はニコヤカに笑い、二人に話しかける。
「お前、何処から入って来た…大体、最初からこの中に居たのか?」
「違うよ、私のIS・ディープダイバーで壁抜けですっ!」
「か、壁抜けだとっ?…そ、そんなバカな?」
「お前…今、誰の命令だと言った、母さんとは誰だ?」
「ああ、貴方がC.C.(シーツー)さんですか…天王って言えば解るでしょ?」
「て、天王だと?」
「はい〜、天龍鬼神八部衆の長で、私の母さんで〜す」
「じゃあ、やはり…あの御方が…甦っているのか?」
「はい、父さんも目覚めてますよ〜」
「おい…一体、何の話か、さっぱり解らん。説明しろ!」
「いえ、余り時間が…あら? 困ったな〜、タイムアウトみたい」
ルルーシュが二人に問い詰めようとしていると、トラックが停止した。
トラックは追っ手を逃れようと地下鉄路線に入っていたのだが、構内に出来た穴に嵌り込んでしまって動けなくなったのである。
徐々に追っ手がトラックに迫りつつあった。
「テロリストは、地下鉄構内に潜伏している。貴様達の目的はテロリストが奪った兵器を見つける事にある。
イレヴンの居住地シンジュクゲットーの旧地下鉄構内を探索せよ! 発見次第、コールを送れ!
ターゲットの回収は親衛隊が執り行う!
貴様達は名誉ブリタニア人とはいえ、元はイレヴンだ! 同じ猿の匂いを嗅ぎ分けろ!
銃火器の携行を許可される身分になるために、十分な功績をあげろ! 今こそブリタニアに忠誠を見せるチャンスである!」
「「「「「「「「Yes! My Load!」」」」」」」」
親衛隊の命の下、次々と兵士が地下鉄構内へと突入して行く。
「…さて前と同じなら、そろそろスザクが来る筈だな?」
「だが…あいつにギアスを使う訳にはいかん…今は、まだ早い」
「そうか…そうだな。セイン、ちょっと隠れてろ」
「はいは〜い、無茶はしないで下さいね〜?」
セインは床を通り抜け、その場から文字通り消えていった。それを呆然と見つめるルルーシュと、顔を顰めるC.C.(シーツー)だった。
「…何とも出鱈目な娘だな、セインとかいうのも。まあ、お前もだが?」
「ルルーシュ、目糞鼻糞って知ってるか?」
「…相変わらず口の悪いヤツだな、お前は」
その時、トラックの横のドアが強制的に開けられ一人の男が入って来た。それは枢木スザクであった。
「そこの二人! 大人しくしろっ! ど、毒ガスの蓋が開いてる?」
「ああ、それは毒ガスなんかじゃないみたいだぞ? 最初から開いてたが」
「な?…君って、まさかルルーシュ?」
「お前…スザクか?…如何やらブリタニア軍に入ったようだな」
「うん、だけど如何して君が此処に?」
「バイクで走っていたら、このトラックが運転操作を誤ってな? 助けに来て巻き込まれた。で…中には、この女がいたわけだがな」
「女とは酷いな? まあ起こして貰った事には礼を言うが…」
「つまり、この女を毒ガスに仕立てた訳だな? 多分は…クロヴィス辺りが」
「それって、如何いう事…?」
「よく見つけたな…名誉ブリタニア人、枢木一等兵」
「…来たか、ゲス共が…」
「なに、魔女が目覚めてるだと? それにブリタニアの学生か?」
「これは毒ガスと聞いていたのですが、どういう事なのでしょう?」
「貴様に抗弁の権利など無い! 貴様達は命令に従えば良いのだ!」
「し、しかし…」
「確かに毒かもな、お前は? 外に出ればスザクの主人達が危うく…な?」
「酷いな、貴様も似たようなモノだろうが?」
「ふ…魔女にだけは言われたくはないものだ」
「チッ! 拙いな…だが、その功績を評価する。これは慈悲だ、枢木一等兵! この拳銃でテロリストを射殺せよ! これは命令である!」
「え…か、彼は違います。ただの民間人で巻き込まれただけでしか…」
「貴様ぁ、命令に逆らうと? ブリタニアに忠誠を誓ったのではないのか?」
「…でも出来ません、民間人を撃つような事は…」
「何? なら用はない! 死ね!(ズキューン)」
「え…そんな…?」
後ろから撃たれ、倒れるスザク。だが、それを見つめるルルーシュは何処までも冷徹だった。
ここで死んでしまったら、お前は楽だったんだろうな…スザク。
所詮、お前と俺は交わる事の無い線…俺にとって、ただの敵だっ! さて、そろそろヤツが自爆の頃合か……。
「見たところブリタニアの学生らしいが、運が悪かったな? その女を捕獲した後、そいつも射殺しろっ!」
「「「「「「「「Yes! My Load!」」」」」」」」」
「ブリタニアの…クソッタレ…日本…万歳!」
運転席で重傷だった運転手がトラックの自爆ボタンを押す。爆発と共に衝撃が起こり、トラックは吹き飛んでしまった。
親衛隊が慌てる最中、その隙にルルーシュはC.C.(シーツー)を伴って、その場を離れる。
それに気付いた親衛隊隊長が、慌ててバトレーに連絡を取った。連絡を受けたバトレーは、狼狽しながらクロヴィスに報告する。
「バ、バカモノッ! バトレーよ、アレに逃げられたというのか?」
「も、申し訳ありません。今、追っておりますゆえ、直に発見…」
「何をしておる? アレが表沙汰になればタダではすまん。バトレー! 作戦を次の段階へと移行させろ。
第三皇子クロヴィスとして命じる! シンジュクゲットーを壊滅させよ!」
その命により、シンジュクゲットーは鮮血の地獄と化した。ナイトメアだけでなく、ブリタニア軍兵士達の惨殺劇が始まったのである。
その頃、爆発に紛れて地下鉄構内を移動していたルルーシュ達は…
「解ってはいても…何も出来ないのが辛いものだ。しかも自分達が原因と解っているだけに…余計、尚更だな」
「ほお?…今更に偽善とはな、ルルーシュ」
「今、シンジュクゲットーに居る日本人は、己の全てを放棄した奴隷だ。
人はな? 結局、自分が生きる意志を示さなければ何もならん。
確かに今の俺は道具かも…道化かもしれんが…だが俺は、あの男を倒す! あの男の帝国を何時の日にか叩き潰す! そして俺は…」
「ナナリーの為に優しい世界を作る…か?」
「優しい世界か…確かに以前の俺は、そう思っていた」
「違うのか? 意外だな…」
「一度、死んだ時に考えていた…俺は、別に覇者に為ろうとかは思わん。
だが、あの男が居る限り戦乱は絶えん! 安寧の時など誰にも訪れん!」
「まあいい、ナナリーだけでなく…か?」
「ああ…それに妙な感覚がある…ナナリーだけでなく…」
「他に大事な人達がいます…ですか?」
「お前は、さっきの…確かセインとか言ったな?…何時の間に此処に?」
「私は神出鬼没ですも〜ん、でも、二人とも無事で何よりでした」
「いや、そうもいくまい…この出口に親衛隊が待ってるだろうしな」
「だな? じゃあ行くか」
「シナリオ通りみたいで何となく嫌だがな?」
「もう以前と少し変わってるだろ、ルルーシュ?」
「確かに…そうだな」
一つの階段を見つけ上ると、廃屋で親衛隊が日本人を虐殺していた。そして親衛隊が3人を見つけ、包囲する。
「やれやれ、あっさり見つかったぞ? 前と全く同じだな」
「でも貴方も、意外に能天気ですって(苦笑)」
「これが摂理さ、さて…」
「ほう? あそこから、此処まで逃げてくるとはな。 流石はブリタニア人だ、学生にしてはよくやる。
だがテロリストの最後に相応しいロケーションだ。何時の間にか、女が一人増えたか?…しかし、お前達の未来は此処で全て終わる!」
全て終わる…か。確かに普通ならば、この状況を打破する手段は無い。
だが…何一つ出来ないままに、あっさりと俺は終われるのか?
バカなっ! それに何の意味が有るっ? 折角、俺は過去へと戻り…この遣り直せる機会を得たのだっ!
何者の筋書きかは判らんが、まずは…この下種共を如何するかだな…。
「ふふ…なら一つ聞こうか?」
「何かな、死に際に命乞いでもするのか?」
「ブリタニアを憎むブリタニア人は、どう生きればいい?」
「何っ? まさか貴様…共和主義者か?」
「どうした…撃たないのか? 俺達3人共に丸腰だぞ。それとも気付いたか、貴様達の前に立っているのがブリタニア皇族だと?」
「何だと?…戯言をっ!」
「そして撃っていいのは撃たれる覚悟のあるヤツだけだ! という事をな」
「な、何だ?…身体が…動かぬ…そうか…あの…あの目だ…」
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる! お前達は・・死ね!!」
「「「「「「「「「「 Yes!Your Highness!!」」」」」」」」」」
ルルーシュの左眼のギアスが光り、クロヴィスの親衛隊を包み込む。
そして彼等は宣言し、狂喜の余りに互いを撃ち合い、全員が鮮血に倒れた。
それを黙って見つめるルルーシュと、C.C.(シーツー)にセインであった。
あの日から…俺は、ずっと嘘をついていた。 生きているって嘘…名前も嘘…経歴も嘘…何もかも嘘ばっかりだ。
全く変わらない世界に、ずっと飽き飽きしていた…あの頃。でも嘘って絶望で、何も諦める事も出来ずに居ただけの俺。
だが、俺は手に入れた…ギアスという力を。だからこそ俺はゼロとなった。ナナリーの望む優しい世界を作るために。
しかしスザクのヤツが俺を…そして俺は倒れた。何も出来ずに…もうナナリーの為だけの世界は出来ない。
それならば、これから俺は如何する? 俺は取り戻した…王の力を…だからっ!
決意を新たにするルルーシュと、面白そうに見つめるC.C.(シーツー)。
そして謎の少女セインは、その二人を興味深そうに眺めていた…。
これがギアス…王の力なのか〜、これは凄いなあ。
でも母さんの言ってた通りだね。みんな、面白い事になりそうだよ…うふ…うふふ……
セインは、ギアスを見ながら思いを家族に馳せる。彼女の思いの先…そこには漆黒の空間の中に玉座があった。
そこに座る強大な力を持った存在感は圧倒的であった。そして控える八つの存在…全員が玉座の者に、恭しく頭を垂れて……。
「天王よ、黒の覇王は目覚めたようだな…それに緑の魔女めも」
「はい…如何やらセインも上手く合流出来たようですわ。 これから如何なさいますか?」
「取り合えずはジェイルに任せておけ。お前は八部衆と例のモノを頼む…」
「解りました。まずは予定通りでございますね? ただ…例のモノを復活させるには、今少しの時間が掛かりますけれど」
「それは仕方あるまい。今は準備を優先させねばならぬ。
ふふ…だが此度は、早々アヤツ等の思い通りにはさせぬぞ? 反逆者V.V.(ブイツー)よ…神に歯向かう愚者達めに…天罰を!」
「「「「「「「「神に歯向かう愚者達に天罰を!」」」」」」」」
ルルーシュとC.C.(シーツー)を過去へと逆行させた謎の存在の正体は何者なのか?
果たして天龍鬼神八部衆とは?
過去は、前回と違った歴史を歩み始めようとしていた………。
Next Stage.02『 白騎士 ランスロット 』
どうやら俺は、C.C.(シーツー)と過去の世界へ逆行してしまったらしい。そもそも何者が、そんな事が可能だと言うのか?
それに天王とは何者だ? 天龍鬼神八部衆とは何だ?だが、それより今度こそは上手くやってみせる。この俺の矜持に賭けても。
まずは、このシンジュクを…どう突破するかだが?
後書き
今作は公開原作の第一期のみで書いている話なのでラウンズは未登場、捏造設定ばかりですがご容赦を。
色々と事情があり、少しずつ改稿中です。
R2が始まる前に書き始めた長編で、まあメチャクチャな話に為って行くんですが楽しんで戴ければ幸いです。