私は何も知らない籠の鳥でしか無かった事に気付いた時、全ては終わってしまっていた。

 私が存在していた為に、此処までお兄様が傷ついてしまった。

 ずっとお兄様は私の幸せだけを考えて、常に自らを犠牲にしていたというのに…。

 私はお兄様の苦悩を露とも知らず、何も見えぬ事を免罪符にしていただけだったのだ。

 

 私の罪は余りにも重い…これ程に、真実を知る事が辛いだなんて思わなかった。

 自分の為にお兄様を破滅させても私が嬉しい筈も無いのに、お兄様は全てを私の為だけに鮮烈に生き抜いた。

 兄に取って私は重い鎖でしかなかったのに、それをお兄様は喜んで受け入れた…優しい私だけのお兄様。

 

 全てを知った時、私は絶望しか残されていなかったのですよ……お兄様。

 私の人生全ては誤りだった…全ては、自らが生きてしまった為の罪。

 生きながらえてしまったからこそ私の存在は、お兄様の人生を歪ませてしまった。

 だからこそ…遣り直したい…たとえ私が、替わりに地獄に堕ちてしまうとしてもっ!!

 

 

「 ギアス真世界 」 短編 『 贖罪のナナリー 』(加筆改稿版)

 

 

フジ決戦が終わり、ルルーシュに反旗を翻す者は全て消え去った。

兄、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアによって裁かれたナナリー。

自分の愛した兄は、もう何処にも居ない…と彼女は諦観せざるを得なかった。

今…まさに処刑台へと運ばれていく、鎖で縛られた自分自身を卑下していた。

 

 私の愛した、あの優しい…お兄様は死んでしまったのですね。

 此処に居るのは、実の兄弟姉妹を惨殺処刑しようとしている卑劣で冷血な独裁者。

 私は…結局、何も出来なかったのかも知れない。

 ユフィ姉様…仇を取れなくて…本当にゴメンナサイ。

 

鎖に繋がれたナナリーと共に、十字架に掛けられた黒の騎士団の幹部達の見せしめの護送。

周りで群集は、悪逆皇帝に対する憎悪を募らせたが、自らの無力さに涙した。

ゼロさえ生きていれば…あの枢木スザクを救った時の様な奇跡を起こしてくれる。

それを望む事が、奇跡だという事を嫌という程に判っているというのに…。

だが…群集の望んだ奇跡は起きた。

全てはゼロレクイエム…ルルーシュのシナリオの通りに。

護送車の前に、悠然と立ちはだかる男…それはゼロっ!

 

ゼロは見事な俊敏な動きで銃撃を避け、一気に皇帝ルルーシュへと迫った。

そして長剣が彼の胸を貫き…彼は、下に居たナナリーの処に転落する。

呆然と見ていたナナリーは正気を取り戻すと、兄の手を握った。

そして彼女の脳裏に映る映像は、彼女に取って悪夢そのものであった。

 

ナナリーは、全ての真実を知り…驚愕する。

 

「……お兄様? そんな…お兄様は、今まで…お兄様っ! 愛していますっ! お兄様っ!!」

 

滑り落ちて来た兄ルルーシュの手を握るナナリーは、彼の生涯を見た。

それは…自分にとって絶望でしかなかった…兄の望んだ優しい世界という名の。

 

「ああ…俺は…世界を壊し…世界を…創る…ナナ…リー…」

 

ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア…悪逆皇帝と呼ばれた少年の時計は止まった。

最愛の実妹、ナナリーの腕に抱き締められながら…その身体を鮮血で満たして。

震える声で泣き叫ぶナナリーは、全てを知った…兄の生涯の全てを。

それは、まるで走馬灯であるかの如くに。それは彼女の中に絶望だけを生んだ。

 

「……お兄様? 嫌ぁっ! 目を開けて下さいっ! お兄様っ! お兄様ぁぁぁぁ……」

 

泣き叫ぶナナリーは、何故か2ケ月前の光景を思い浮かべていた。

あのダモクレスでの…ルルーシュと逢った時の事を………。

 

閉ざされていた筈のナナリーの眼が開かれた…。

それは、ルルーシュと同じ紫水晶の輝き。ブリタニア皇族としての血の絆の証。

 

「8年振りに、お兄様の顔を見ました。

 それが人殺しの顔なのですね。恐らく、私も…同じ顔をしているのでしょう」

「…そうだな…首都ペンドラゴンは、お前によって壊滅した。

 1億の民、全てと共にな…確かに、お前も俺と同じ人殺しだ。

 スザクが、フレイヤでトウキョウ租界3千万以上を惨殺したように」

「また私に嘘をつくのですね。大多数のギアスに掛かっていない人は脱出した筈です」

「はははは…ナナリー、お前は本当に何も判っていないな?」

「何を笑うのですかっ!」

「何も見えないだけでなく、ナナリーは本当に愚かだったのだな。

 シュナイゼルに、それが可能だったと本気で思っているのか?

 お前が殺したんだよ。何しろ、いきなりの奇襲攻撃だったからな。

 オデュッセウスも、ギネヴィアも、カリーナも…全て、お前が殺した。

 所詮、ブリタニア皇族は人殺し揃いだ…だが、それが国是だからな」

「そ…そんな嘘で、また私を動揺させるつもり…」

「今のお前などと話してる無駄な時間など、私には最早ない。

 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる…ダモクレスの鍵を渡せっ!」

 

ギアスに掛かったナナリーは、抵抗しつつもダモクレスの鍵を渡す。

 

「ナナリー…これ以上、お前が血に塗れる必要はない。

 全ては、俺が背負って行く…お前の罪も…そしてユフィの罪も。

 全ての悪意を背負う…それがゼロレクイエム。

 お前だけは…俺の分まで生きてくれ…俺の勝手で傲慢な願いだがな。

 愛しているよ、ナナリー…俺に取っては、お前を護る事だけが全てだった」

 

彼女の前を離れるルルーシュ。

そして正気に戻ったナナリーは…冷たい目で見下ろすルルーシュと、彼の手にあるダモクレスの鍵を見て絶望する。

 

「使ったのですね…私にギアスを、待ちなさいっ!」

 

立ち去るルルーシュを追うも、階段に車椅子が躓き倒れて投げ出される。

ナナリーは、床に叩き付けられるも、キッとルルーシュを睨み付けて罵った。

このギアスという悪魔の力を持った卑劣な男に対する…せめてもの抵抗だった。

 

「お兄様は悪魔ですっ! 卑劣で…卑怯で…何て…何て酷い…」

 

その光景を見つつ、ナナリーは知った。

兄の愛を…そして優しさを。自分が為した事の、余りの罪深さを…彼女の中で、何かが目覚めようとしていた。

そして…彼女は意識を失い、真っ暗な闇の中に落ち込んでいった………。

 

彼女が気付くと…其処は、何も無い真っ白な世界だった。

そして辺りに重厚で荘厳な声が響き渡り…ナナリーは、ただ萎縮するしか出来なかった。

 

<ナナリー・ヴィ・ブリタニア…私の声が聞こえるかな?>

「ど、何方でしょう?」

<私には名などない…敢えていえば無意識集合体とでも呼べる存在。

 しかし名が無ければ判らぬか…便宜上、私をワイズマンとでも呼ぶがよい>

「ワイズマン?」

<少し納得がいかぬ仕儀であったのでな…それで、そなたに干渉した>

「それは…如何いう事でしょう?」

<そなたの兄ルルーシュは、我等にギアスを掛けた…明日が欲しいとな>

「明日?」

<そうだ…だからこそ我等は、ラグナレクを強制停止させた。願いを適える為に。

 ラグナレクとは、全ての意識を我等と同化させる行為だった。

 だが、それでは個々の意識は失われる…ムリもないがな。

 人である身が、それを為すのは愚かな行為であった。

 我等は遠き昔、それを行った咎で滅び去ったのだから。

 そう…ギアスも、コードも、その産物に過ぎぬ。やはり何時の世も…人は愚かだ>

「お兄様が…明日を?」

<そうだ。だが…ゼロレクイエムという愚かな行動に走った。

 しかしルルーシュとは、余りにも優しすぎる男であったな。

 だが敢えて聞こう。お前は、それで本当に良かったのか?

 愛する兄を失ったのに…ヤツは、お前の為に命を投げ出した…全てを捨ててな>

「それは…私が、いなければ…お兄様は死なずに」

<確かに、そうかもしれんな。如何かな…もう一度、遣り直してみるか?>

「出来るの…ですか? そんな事が……」

<遣り直したところで、また後悔するやもしれぬがな。

 そうそう…そなたは目が見えても動けなかったな。だからこそ力が無ければ、そなたは何も出来まい…力が欲しいか?>

「力…ギアスですか?」

<そうだ。だが、それを私は無理強いをせぬ…そなたが選ぶのだっ!>

「欲しいです…力が。それが私の贖罪ならば。お兄様を…止められるのでしたら…私が地獄に堕ちてでも」

<良いだろう…ナナリー・ヴィ・ブリタニアよ、そなたに王の力を授けよう。

 未来とは人の生き様によって変わるものだ…私が、その末を見届けようぞ>

「有難う…ワイズマン」

 

 両目が…熱い…私は…後悔しません。お兄様を…護りたい。そして…全ての悪意に、罰を与えましょう………。

 

堕ちていく感覚を覚えながら…ナナリーは意識を失った。

そして…ふと意識が戻ると、傍に気配を感じた。

何故か目を開ける事が怖かった為、閉じたままではあったが。

自分の枕元に居るのは、何時も自分を護ってくれた懐かしい咲世子だった。

 

「気がつかれましたか、ナナリー様?」

「…咲世子さん?」

「はい…然様でございます」

「私は…如何して?」

「ここはアヴァロンの中でございます…一室に閉じ込められていますが」

「え? では…ひょっとしてシュナイゼル義兄様の?」

「ええ…フレイヤの爆発に巻き込まれましたが、ギリギリで助かりました。

 そして私達は、このアヴァロンへと連行されたのでございます」

「そう…」

 

 そうなの…どうしてか判らないけれど、私はフレイヤ爆発の時に戻ってる。

 トウキョウ租界壊滅の時まで…如何してなのワイズマン。私に遣り直せと?

 そう…これが私が選んだ道なのね。

 お兄様に対する私の贖罪…私の為だけに生きたお兄様を…救わなければ。

 

「まだお疲れでしょう。私が付いておりますから、お休み下さいませ」

 

横になったまま、ナナリーは自らの力について何故か把握出来ていた。

紅の魔女が…その息吹をあげたのだった。

 

それから数日後、ルルーシュがブリタニアに現れ99代皇帝を宣言。次々と内部改革を進めてゆく。

その傍にはC.C.(シーツー)と、ナイトオブゼロ・枢木スザクの姿があった。

そして…カンボジアでも異変が起こっていた。一人の女性が、シュナイゼルの下から脱出したのだ。

 

「義兄上…何かあったのですか?」

「私達に賛同出来ないという人が、此処から逃げ出してね。如何も急ぐ必要がありそうだね…ダモクレスの完成を」

「本当にそれしかないのですか? それは悪魔の所業ですよ?」

「選ぶのは、世界だよ…我等ではないさ」

 

 シュナイゼル義兄上…貴方は、ルルーシュを倒して覇王になろうとでも言うのですか?

 いや…違う、神を目指すとでも? ユフィ、私は…これから、どうすれば…良いのだ?

 

思い悩むコーネリアをナナリーが呼んでいるというので、彼女は部屋へと赴いた。

部屋の中に居るのは…ナナリーただ一人だけだった。

 

「どうしたナナリー、私に何か用かな? それに確か付き添って居た者がいた筈だが?」

「咲世子さんが、ここから立ち去ったものですから」

「何? じゃあ義兄上の言っていた賛同出来ない逃亡者とは…」

「はい…それでコーネリアお義姉様…私を手伝って欲しいんです」

「お前を? じゃあルルーシュを倒す為に、皇帝になると?」

「ええ…その前に…」

「え? ま、まさかナナリー…目が? な、それは?」

 

コーネリアはナナリーが目を開けた事に驚く。

それ以上に、彼女の両目が真っ赤に染まった事に驚愕していた。

それは…忘れもせぬ禍々しきギアスの光だったからだ。

コーネリアの意識は…此処で途絶えた。

 

それから数日後、シュナイゼルはカノン、コーネリア達と共に、天空要塞ダモクレスの司令室に訪れていた。

 

「ようやく完成したね…天空要塞ダモクレス」

「義兄上、完成しているフレイヤ弾頭を、全て運び込んだそうですね」

「ああ…これで、やっと私も動けるというものだよ」

「でも…これから如何するつもりですか、義兄上? 本当に首都ペンドラゴンにフレイヤを撃ち込むおつもりなんですか?」

「ああ…ギアスに操られた者など私には不要だよ。

 ならば死んだ方が身の為だ。フレイヤによって、たとえ10億、20億の人間が亡くなったとしてもね」

「それは…義兄上、傲慢というのですよ。人をスイッチ一つで殺せるというのは如何なものです?」

「ほう? 反対なのかなコーネリア?…では剣を、私に向けるのかな?」

「いえ、その必要はないでしょうね…ただ貴方を拘束するだけです」

「ふふ…出来るとでも?」

「ええ…カノン、シュナイゼルを取り押さえて」

「Yes! Your Highness!」

「な、何?…ぐはっ!」

 

いきなりカノンに殴られ、取り押さえられるシュナイゼル。

そして自らの近衛兵達も、彼に銃を向けている事実に唖然とした。

コーネリアとカノンは冷たくシュナイゼルを見下ろしていた。

 

「く…カノン、これは如何いう事だい? まさか私の近衛まで私を裏切るなんてね?」

「私が裏切り…ですか? 私は主君に背いたりなどしていません」

「…君は、私の部下では無いとでも言うつもりかね?」

「違います。私が仕えるはナナリー・ヴィ・ブリタニア殿下でございますゆえ」

「何?」

「カノン…コーネリアお義姉様、有難うございます」

「「Yes! Your Majesty!」」

 

「ナナリー、何時の間にダモクレスに…眼が開いてる? まさか…ギアスか?」

「はい、カノンもコーネリアお義姉様も、私に協力してくれてますの」

「君が、まさかギアスを持っていたとはね…これは全く誤算だったな」

「ええ…貴方も同じ運命。

 ナナリー・ヴィ・ブリタニアが命じますっ! シュナイゼルお義兄様、私に永遠の服従を誓いなさいっ!!」

 

彼女の両目に真っ赤に光るギアス。彼女も<絶対遵守の力>を得ていたのだ。

コーネリアも、そしてカノンも、シュナイゼルの近衛達も…何時の間にかナナリーの奴隷になっていたのだった。

誤算に絶望しつつ、シュナイゼルの意識は暗黒の中へと堕ちていった…。

それを冷たく見下ろすナナリーだった。 天空要塞ダモクレスは…ナナリーの手に落ちた。

 

 哀しいですわね…本当に愚かですわ、シュナイゼルお義兄様。

 何もかも貴方の思う通りに世界が動くなどと思うのは、ただの傲慢です。

 だからこそ…私の様な弱者に梯子を外され、その足を掬われたんですわ。

 

その頃、ルルーシュは国内平定に全力をあげていた。

貴族階級の廃止、全エリアの解放、次々と打ち出す政策に旧特権階級の叛乱が後を絶たなかった。

ルルーシュの騎士ジェレミアは、その鎮圧に日夜奔走していた。

 

そして内部の叛乱勢力の全てを鎮圧した後、シャルル暗殺に不服を示したナイトオブラウンズが叛逆。

ナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタイン。

ナイトオブスリー、ジノ・ヴァインベルグ。

ナイトオブフォー、ドロテア・エルンスト。

ナイトオブトゥエルヴ、モニカ・クルシェフスキーの4名。

ナイトオブナイン、ノネット・エニアグラムのみルルーシュに従った。

 

彼等は直属部隊を引き連れ首都ペンドラゴンに迫ったが、迎撃するはスザクのランスロットアルビオン一騎のみ。

だが第9世代ナイトメアの性能は圧倒的だった。スザクのランスロットアルビオンの前に、全員が散華した。

その場面を見ながら、ただノネットは呆れるだけだった。

 

「ふう…陛下、ランスロットも凄い性能ですね…枢木卿の力量も凄まじいですが」

「ああ…そうだな、だがエニアグラム卿…お前は良かったのか?」

「まあ私は、ちょっとコーネリアのヤツが心配ですしね。

 あのバカ、腹黒皇子なんかと一緒で…全く何も考えてないんですから、ちょっと…お灸を」

「そういえば、義姉上の先輩でしたかね」

「それに、陛下って少し…か細いですから心配なんですよ。

 前シャルル陛下も、不器用な方だったですからね。わざわざ陛下の記憶を改竄してまで…ほんとに不器用な方でしたわ」

「卿は知ってたのか?」

「ビスマルク卿も当然、知ってましたよ。ですが自分はシャルル陛下に殉ずるって」

「そうか…急がないとな。咲世子の知らせでは、もう時間が少ない」

「全く…困ったものです。ところで咲世子さんのお身体は大丈夫なんですか?」

「暫く動かせんだろう。済まないが、貴方に首都防衛は任せる」

「Yes! Your Majesty!」

 

カンボジアより逃げ延びた咲世子だったが、重症だった為に動かせなかった。

彼女の齎した情報を下に、急ぎ動く事を決意するルルーシュは超合集国入りを宣言。

国内防衛をノネットに任せ彼は単身、指定したアッシュフォード学園に赴く。

案内に立つは、黒の騎士団零番隊隊長紅月カレン。

学園を案内しながら…二人きりになったカレンは、ルルーシュに尋ねた。

 

「私…貴方には感謝してる。貴方がいなければシンジュクで死んでた。

 黒の騎士団も無かった。私は嬉しかった。ゼロに必要とされた事が。

 でもゼロが貴方だと知って判らなくなった。何をしようとしてるの?

 スザクと手を組んでまで…貴方は、私の事をどう思っているの?

 ルルーシュ…あの時、如何して君は生きろって言ったの?」

 

感情のままに、ルルーシュにキスするカレン。黙って、それを受け止めるルルーシュ。

唇を離し、彼の眼を見つめ…彼の決意を見たカレン。

そして…カレンは気付いてしまった。彼が為そうとする事を…ようやく。

だから、彼は…もう後へは戻らないだろうという事も。

だからこそ彼女には…こう言うしかなかった…別れの言葉を。

 

「さようなら…ルルーシュ」

 

その後、議場で審議が開始され、壁に閉じ込められるルルーシュ。

彼を弾劾する黒の騎士団の扇、藤堂、千葉達。

それを苦々しく見つめる議場の神楽耶と星刻、そして各国首脳達。

騎士団の暴走を諌め様と神楽耶が話そうとした刹那、それは起こった。

 

「た、大変です、皇議長。一大事ですっ! 緊急事態が発生しましたっ!」

「如何しました? 今は重要な会議中ですよ、何事です?」

「そ、それが…たった今、蓬莱島が…消滅しました」

「え? そ、そんな事が…」

 

そこに映し出されたのは、蓬莱島にフレイヤが撃ち込まれ消滅する様子だった。

斑鳩でも動揺を隠せなかった…扇も、藤堂も、他の皆も。

 

「そんな…誰が、こんな酷い事を…」

「どうみても…フレイヤ弾頭による攻撃だ」

「くそっ!…ルルーシュ皇帝っ、貴様の仕業か?」

 

皆が驚く最中、スクリーンに映し出される者…それはナナリーだった。

後ろにシュナイゼル、コーネリア、カノン…そして縛られたディートハルトの姿があった。

冷たい目をして、扇達を睨むナナリーの目は憎悪に満ちていた…。

 

『違いますわ…お兄様ではありません、私のした事ですわ』

 

 黒の騎士団がお兄様を裏切らなければ…あんな悲劇は起こらなかったかもしれない。

 いえ…私が何も知らなすぎたのが罪だったのかも知れません。

 ユフィ姉様は、お兄様を何とか救いたかったのでしょう?

 ギアスさえ暴走しなければ、あんな事にはならなかった筈。

 ギアス…その存在が、やはり不幸を呼ぶのかもしれませんね。

 

「え? ま、まさか…ナナリー?」

『私はナナリー・ヴィ・ブリタニア。正統なるブリタニア皇帝です。

 私が天空要塞ダモクレスからフレイヤを発射して蓬莱島を消滅させました。

 これで黒の騎士団は、本拠と戦力の大半を失った訳ですね。

 ゼロを裏切り、ブリタニアに売ってエリア11を取り戻そうとした報いです』

「な?」

『ゼロを暗殺した扇要、藤堂鏡志朗、千葉凪沙、玉城真一郎、南佳高、杉山賢人、そして…ここに捕らえているディートハルト・リート。

 それに黒の騎士団、その全てに対して私が断罪を与えましょう。それが世界の意思です。

 超合集国などゼロが居ない今、ただの烏合の衆に過ぎません。

 世界は私の前に…この天空要塞ダモクレスの前に平伏すのです。まずは…一人目』

 

磔になっていたディートハルトに銃を向けるや否や…銃声が響き渡る。

ディートハルトを無表情で射殺するナナリーに、誰もが戦慄を隠せなかった。

そして…ルルーシュは驚愕を隠せなかった。ナナリーが自ら人殺しをするなど、自分には想像だに出来なかったからだ。

 

『さて…フレイヤの次弾装填は終わりました…目標は斑鳩。

 では、さようなら…世界の希望とやらを自らの手で裏切った黒の騎士団の皆さん?』

 

そしてフレイヤは、トウキョウ租界より離れた場所に待機していた斑鳩へ?

慌てて迎撃を命じる扇だったが…フレイヤを防げる筈も無く……フレイヤは炸裂した。

 

「く…迎撃だっ!」

「ダメです…迎撃が間に合いませんっ!」

「そんな…バカな…何故、俺が…ルルーシュさえいなければ、こんな事には…」

 

フレイヤの閃光の最中…斑鳩は消えた。扇、藤堂、千葉、南、杉山、そして玉城も閃光の中に消えた。

議事場で絶句する神楽耶、天子、星刻…そしてルルーシュも。

 

「そ、そんな…」

「か、神楽耶…」

「く…ナナリー・ヴィ・ブリタニア…何て真似をっ!」

『これで黒の騎士団は、ほぼ全滅。超合集国に武力は無くなりました。

 うふふ…そして99代皇帝を僭称するルルーシュお兄様。

 私に従えば良し。そうでなければ…フレイヤの威力を思い知るでしょう。

 少し猶予を差し上げましょうね。考える時間も必要でしょうから。

 今から48時間後に降伏しなければ、全世界にフレイヤを発射します。

 私に従属するか?…それとも滅亡ですか? どちらかを選びなさい(プツッ)』

 

 ナナリー…何故、お前がこんな残虐な事をしたんだ。

 シュナイゼルに騙されているとでもいうのか?

 一体、お前に何があったというんだ…俺には判らない……。

 

映像が消えるスクリーン。呆然とする超合集国議事場の首脳達。

黒の騎士団の壊滅。そして彼等のゼロの暗殺と裏切り。衝撃を隠す事は到底出来なかった。

そして急ぎ議事場を後に、全部隊を召集するルルーシュ。

急ぎ向かっていたスザクも、そしてC.C.(シーツー)も、連絡しながら驚きを隠せなかった。

 

『天空要塞ダモクレス…まさか蓬莱島にフレイヤを撃つなんて…これからどうする、ルルーシュ?』

「スザクか…如何にもシュナイゼルの出方が判らん。

 だがシュナイゼル、ヤツは何を企んでいる? ナナリーを騙して、唆してでもいるのか?

 それに黒の騎士団の戦力の大半は、これで失われた訳だが…」

「陛下、アンチフレイヤシステムには、いま少し時間が必要ですよぉ?」

「それに…何故かダモクレスは、太平洋上に位置を固定しました。

 もし衛星軌道に上がってしまえば…もはや手出しは不可能です」

「判ってる…ロイド…セシル。だが如何してなんだ…ナナリー?」

『黒の騎士団は全滅しちゃったしね。でもルルーシュ、ナナリーは何故?』

「シュナイゼルが、何か企んでいるのか…それとも?」

『とにかく、こっちも戦力を集中させないといけないね』

「うむ…アヴァロンを中心に全部隊を集結させろ」

『Yes! Your Majesty!』

 

その時、アヴァロンに向かってくるナイトメアが一騎。

右手に白旗を揚げて…それはアーニャのモルドレッドだった。

 

「陛下、着艦許可を求めるナイトメアが…?」

「誰だ?」

「ナイトオブシックスのモルドレッドです」

「アーニャか…構わん、着艦を許可しろ」

 

アヴァロンに着艦したモルドレッドからアーニャが姿を現す。

そして…身体検査の後、兵に連れられてアヴァロンの艦橋に現れた。

 

「ルルーシュ君…お久しぶり」

「アーニャ、どうして此処に?」

「ナナリー様が逃げろって…貴方の処に行けば…私の記憶が戻るって…だから」

「記憶…だと?」

「ナナリー様が言うには、私にはギアスが掛かってる…」

「ま、まさか…シャルルのギアスか? ジェレミアっ!」

「は、はい」

 

ギアスキャンセラーをアーニャに掛けるジェレミア。

そして…アーニャは、遂に過去の記憶を取り戻した。ルルーシュと初めて出会った時の事を…。

 

「…思い出した。私、マリアンヌ様の処へ行儀見習いに…」

「ああ…確かにそうだったな、お前には母が乗り移ってたそうだ」

「何となく…覚えてる、無礼をお許しください…陛下」

「いや、それは良いさ…それで、これから如何する?」

「私は、ナイトオブラウンズ…皇帝陛下に仕えたい…」

「判った…歓迎するよ、アーニャ」

「Yes! Your Majesty!」

 

 ナナリーが、アーニャを逃がした?

 という事は、やはりシュナイゼルがナナリーを脅すか騙すかの可能性が高いが…。

 ともかくナナリーを救出しなくてはな。

 しかし時間が足りないな。あの強固なブレイブルミナスを、どう突破すれば良いのか?

 

太平洋上の高空で停止する天空要塞ダモクレス。そして、ルルーシュのブリタニア軍が迫っていた。

カレンも黒の騎士団の残存戦力を率いて参戦、ルルーシュの指揮下に入っていた。

だが何故かダモクレスは、ブレイブルミナスを展開したまま何もしようとしない。

遠距離から攻撃を仕掛けるも、その防御は完璧に近かった。

 

「何とも厄介だね…あのブレイブルミナスの強度は半端じゃないよ」

「ニーナ達も、アンチフレイヤシステムの開発が間に合わなかった。

 とにかく時間も無い…ここは攻めるしか方法が無いか…犠牲が多そうだな。

 だがダモクレスを止めない限り、世界はシュナイゼルの独裁に支配されるだけだ。

 何としても、それを止めなければならない…ゼロレクイエムを為し得る為にも」

 

ナイトメアの大軍でダモクレスに迫るスザク率いるブリタニア軍。

ダモクレスを護るモノは何も無かった…何故かナイトメアの展開も無い。

だが強固な盾ブレイブルミナスを強行突破するのは至難の業だった。

にしても…不自然さは隠せず、ルルーシュは疑念を持たざるを得なかった。

 

 何を考えているシュナイゼル…。

 ナナリーを前面に出せば、俺が手出し出来ないとでも踏んだか? 俺は、そこまで甘くは無いぞっ!

 

「スザクっ! 如何なる強固な防御も一点の集中砲火によって突き崩せる筈だ。

 防御だけに徹する敵の意図が読めないが、一気に攻めて敵の反撃を阻止してくれ。攻撃は最大の防御だっ!」

「Yes! Your Majesty!」

 

その時、ナナリーはダモクレスの司令室でランスロットアルビオンだけを見ていた。

彼女に取って、それは絶対に為さねばならない事…決意だった。

 

「ナナリー様、敵が攻撃を開始しました。先頭はランスロットアルビオン…ナイトオブゼロ、枢木スザクですっ!」

「そう…カノン? ランスロットにフレイヤの照準を合わせて発射しなさい」

「Yes! Your Majesty!」

 

 スザクさん…私は、如何しても貴方だけは許せません。

 お兄様を売ってナイトオブラウンズの地位を得て、私を騙していた。

 貴方は、生きていてはいけないんです…貴方の存在そのものが悪なんです。

 でも…ご自分では、きっと判らないでしょうし理解も出来ないでしょうね。

 

ダモクレス近くに迫り、攻撃を続けるスザク。

だが、いきなりブレイブルミナスの一部が開放、フレイヤ発射口が開かれる。

そしてスザクのランスロットアルビオンに向けてフレイヤが発射された…至近距離で。

そんな至近距離でフレイヤを撃つとは、流石にスザクも全くの予想外だった。

ブレイブルミナスの防御もない状態で、発射口を剥き出しにすれば自殺行為だったからだ。

 

たとえスザクのランスロットアルビオンといえど、フレイヤの破壊力の前には無力だった。

フレイヤは、ランスロットアルビオンのコクピットを直撃…爆発した。

彼は…スザクは、フレイヤの閃光の中で消滅した。

だが至近距離でのフレイヤの爆発である…たとえダモクレスとて無傷ではなかった。

 

 僕は…死ねるのか…やっと。

 

「陛下、ランスロットアルビオンが…消滅しました」

「セシル…そうか。スザク…お前は、やっと死ねたんだな。どちらにしても、これでゼロレクイエムは不可能になったか」

「陛下…ですが、近距離でのフレイヤ爆発でダモクレスもかなりの被害が。ひょっとしたら、強行突破が可能かもしれません」

「よしっ! カレン! アーニャ! ジェレミア! 薄くなった部分に集中攻撃だ」

「はいっ!」

「「Yes! Your Majesty!」」

 

フレイヤが至近爆発した箇所の集中攻撃に、ブレイブルミナスの一部が崩壊、突破口が開いた。

わざとナナリーはフレイヤを至近距離で爆発させ、ブレイブルミナスの一部の装甲を薄くして突破させ易くしたのだった。

そこへカレンの紅蓮聖天八極式が、突入する。続いてジェレミアのサザーランドジーク、アーニャのモルドレッドも。

攻撃を加える中、いきなり爆発し始めるダモクレス。

そして…カレンの下に通信が入る。そこに映ったのはナナリーだった。

 

「誰…えっ、ナナリーなの?」

「ああ…その声はカレンさんですね、ナナリーです」

「一体、何? どうしてこんな事をしたの?」

「全て私が、世界からの悪意を背負う為ですわ…お兄様の代わりに」

「え?」

「お兄様をお願いします…ダモクレスは、あと少しで爆発します」

「えええ?」

「既にフレイヤの自爆装置は起動してます…急いで下さいね?」

「ちょ、ちょっとナナリー?…切れたか。全員、ダモクレスより撤収よ…急いでっ!」

 

 全ての悪意は、私が背負いますから…お願いです、お兄様は幸福になって下さい。

 邪魔なスザクさんは、私が始末しましたから安心なさって。

 邪魔な者は全て、私が地獄へと連れて参ります。

 カレンさん…お兄様を…どうか、お願いしますね…。

 これはブリタニア皇族の誰かが背負わなければならない業だったんです。

 お兄様には違った人生を紡いでほしい…お兄様の足枷でしか無かった私の替わりに。

 

 お兄様…如何か、お幸せに………。

 

爆発するダモクレスの司令室で、赤い目をしたまま表情を変えず、シュナイゼルもコーネリアも巻き起こる炎に飲み込まれていった。

ナナリーも…最上階の庭園で、炎に焼かれ…爆発に飲み込まれてゆく。ダモクレスは、太平洋に墜落…炎上し、爆発して果てた。

ナナリーを案じるルルーシュの絶叫だけが、辺りに響き渡っていた…。

 

「……ナナリ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」

 

 

後世、ナナリー・ヴィ・ブリタニアは、暴虐女帝として名を残した。

 

黒の騎士団も、ゼロをシュナイゼルに日本と引き換えに売り渡し殺害したと認定され、扇達も日本人の怨嗟の対象となった。

後世の歴史書でも、カレンは勇猛果敢な紅蓮の騎士として勇名を馳せたが、扇や藤堂達の対する評価は酷かった。

それほどにゼロの為した功績は、歴史的にも大きかったとも言える。

だが…ゼロとルルーシュが同一人物であるという事実は、遂に判明する事がなかった。

謎の救世主ゼロの名は…正体不明のまま、歴史に燦然と刻まれる事となった。

 

残されたルルーシュは、世界復興と統一に務め、地球連邦政府を設立する。

そして神聖ブリタニア帝国最後の皇帝として、ブリタニアを民主国家に改革し地球連邦に加盟。

彼は地球連邦政府初代主席として、世界平和と融和に務めた後、惜しまれながらも職を退く。

暴虐皇帝、そして賢帝として、また優秀な治世者として名を残して。

 

その後…暫くして姿を消した。

その行方は杳として知れなかった。常に彼の傍に居た赤毛の女性と、碧髪の女性と共に。

 

「なあルルーシュ…本当に此れで良かったのか?」

「さあなC.C.(シーツー)…ナナリーが望んだのが、俺のしようとしてた事だとしたら…」

「スザクを…フレイヤで消去までしてか?」

「多分…スザクも、ナナリーにとっては俺への悪意だったんだろうな。

 だがナナリーのいない優しい世界…俺にとっては、少し重過ぎるな」

「ルルーシュ…」

「さて…カレン? お前には、既に私のコードを渡してる…達者でな?」

「ええ、C.C.(シーツー)もね」

「ようやく…私も長い旅が終わるさ…眠らせてくれ」

 

C.C.(シーツー)は、その身が光に包まれ…空へと消えていった…。

 

「ふう…何だかね、これからどうするの?」

「さて…時間は長いさ。まさか俺も、父のコードが知らぬ間に譲渡されてるとは思ってなかった」

「二人とも不老不死かあ…これからも宜しくね?」

「ああ…こっちこそな」

 

 ナナリー…俺は、この長い時の地獄を歩む。これが俺への罰だ。

 お前が俺の代わりに、全ての悪意を背負ったようにな…全く似た者兄妹だな…俺達は?

 

神根島でルルーシュとカレンは、永劫の時をCの世界で過ごす事となる。

ナナリーにとって幸せであったか否かは判らないが…彼女の魂が安らかであらんことを……。  

 

 

 お兄様…生きて下さい…お兄様の望んだ、明日の為に………  

 

 

 

後書き

泣き叫ぶR2最終話のナナリーを見てまして、ふと思いついた逆行ネタ短編を少し改稿したものです。

ナナリーって、結局のところ最後まで何も知らなかったんですよね。

本編で首都ペンドラゴンの全住民を殺したシュナイゼルに何も思わず、住民を退避させたという嘘を、あっさりと信じた事自体が問題でしょう。

彼女自身、現実が判らなかったとは言えるでしょうけれど。見えないっていうのは、どうしても何も出来ないですからね。

ルルーシュが、ちょっと可哀想だったってのはありますが。ナナリーもルルーシュに対して依存度が高すぎたってのは仕方ないとはいえ。

結局は分岐点で、どう行動したかどうかって事はあると思うんですよね。扇にしろ、藤堂にしろ…そしてナナリーにしろ。

この短編では、逆に全ての悪意をナナリーが背負って死ぬ訳ですが、こういった展開も、あってしかるべきじゃないかなと思ってます。

 

 

12.11.10加筆改稿版up

 

inserted by FC2 system