前書き

この短編は「コードギアスR2」の後日談を描いた捏造短編です。少し断罪っぽい話なので、黒の騎士団好きな方は、ご注意下さいませ。

 

 

 

皇暦2019年6月6日…それは後世に於いて運命の日とも呼ばれている。

果たして、この悲劇は必要だったのだろうかと。

それは悪逆皇帝と評され全ての悪業を背負った一人の若い男が、凶刃に斃れ慙死した日であった。

 

ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア暗殺さる。

 

ブリタニア第99代皇帝だった彼は、人類の歴史上初の世界征服者と為った。

だが、その道筋は平坦なものではなかった。

大半の者は、行方不明だったブリタニア皇族が現れ、電光石火で皇帝の座を簒奪。

ブリタニア本国だけでなく、全ての邪魔者を倒して世界征服を遂げた。

世界を覆う圧政…人は、彼を悪逆皇帝と誹謗中傷した。

弱者に取って、それ以外には何も出来なかった…無力を思い知らされるだけだから。

 

ずっと暗黒の時代を予感させる日々…世界中の人々が絶望していた。

彼に歯向かった者の公開処刑のパレードの場で、ゼロの天誅が下るまでは。

そして世界は独裁の魔の手から解放されたと誰もが、そう信じた。

悪魔の刃たる天空要塞ダモクレスは太陽へと向かい、その巨体を灼熱の炎に焼かれて果てた。

 

これでフレイヤの脅威は去ったと、誰もが安堵しただろう事は疑いようもない。

世界中の怨嗟を受け、悪逆皇帝は解放者ゼロの正義の剣で成敗されたと…。

だが後世で、この日は全人類に大きな悔恨を呼び起こす嘆きの日ともなった。

一人の若者の気高き願いを、人類という種の愚かさが踏み躙る事となると誰が想像しただろうか?

 

 ルルーシュ…貴方の願いは、所詮まほろばの夢だったのかな?

 でも、私は納得出来ない。如何して貴方だけが苦しんで死んでいったの?

 私も贖罪を受けるわ…その前に彼等を断罪しないと、全てを終わらせられないの。

 貴方の意思には背いちゃうけど…あの世で、たっぷり怒られるから許して下さい。

 ユーフェミア様の為にも…シャーリーの為にも…。

 そして不器用で優しい貴方の為にも…此処は退けないの、如何しても。

 たった一つの貴方の想いを踏み躙られる事が、私には如何しても我慢出来なかった。

 これはフレイヤを作った私の贖罪だから…ごめんね……ルルーシュ?

 

 

 

  「 ギアス真世界 」 短編 『 断罪の刃 』(加筆改稿版)

 

 

 

そして皇暦2020年…その僅か一年後、全世界に緊張が走っていた。

復旧しつつある帝都ペンドラゴンの宰相府で、皇帝の重大発表が行われたからだ。

神聖ブリタニア帝国、第100代皇帝ナナリー・ヴィ・ブリタニアの宣旨が下った。

超合集国から神聖ブリタニア帝国が離脱すると宣言したのである。

 

それは一年…僅か一年に過ぎない、余りにも短い平和だった。

人類の背負った悪意とは、何処までに根深いものなのだろうか?

所詮ルルーシュの死は束の間の平和を齎したに過ぎないと認識する事は、ナナリーに取って辛い現実であった。

兄の死を断じてムダにしては為らないと、ナナリーは足掻き始めていたのだった。

 

「シュナイゼルお義兄様…合衆国インドが大量破壊兵器の開発を進めているのは事実なのですか?」

「間違いないようだよ、ナナリー陛下。しかもフレイヤの開発をね」

「如何してフレイヤが残っているんですか? 全て無くなった筈でしょう?

 ルルーシュお兄様が命を投げ出して、やっと世界に平和を齎せたのに…」

「やはり人というものは愚かな生き物なのだね…平和に慣れると、すぐに力を欲する様に為る。

 自分が強くなりたくなる。他人を虐げたくなる。他人を見下したくなる。

 これは力への渇望、強き力への飢餓…人間の奥底に眠る欲望は、果てしないものだよ。

 如何やら超合集国3代目最高業議会議長ロベスピエールも、その例外では無さそうだね。

 合衆国フランスのブリタニアへの攻撃姿勢は、鮮明になってきているよ。

 旧EUを纏めインドと手を取り合おうとしてるのは、もはや疑う余地がない」

 

「シュナイゼル宰相、君は此の事態は如何すべきと考えている?」

「ゼロ様…このまま手を拱いていれば、合衆国インドは暴走し始めましょう。

 元々、我等ブリタニアの軍備は世界を圧倒しております。

 そして、インドの隣国たる合衆国中華への反発は多大なモノがありますし」

「確かにインドは元々、中華連邦の支配化だったからな」

「然様でございます。合衆国中華への敵対行動は時間の問題でしょう」

「この事態に対して、ブリタニアは如何動くべきだと?」

「この際、独自に動くべきではないでしょうか?

 既に、旧EU所属の各国もインドに同調の気配が濃厚です。

 中華軍総司令官であり、黒の騎士団総司令の黎星刻は病床の身。

 隣国の合衆国日本首相の扇は余りにも無能ですが、如何せん彼の押さえがいません」

 

「超合集国初代最高評議会議長の皇神楽耶殿は如何している?」

「既に彼女は出家しておりますゆえ…ムリもございませんが」

「ルルーシュに殉じた…か」

「大勢の死者を弔うためと…ですが実際には、前皇帝ルルーシュ陛下の菩提でしょう」

「ならば、日本の状況は?」

「扇首相は外交音痴でございますから、うろたえているだけとか」

「では如何する?」

「やはり一度、ブリタニアは超合集国を離脱すべきでしょう。

 エリアを開放したとはいえ、我がブリタニアは世界に冠たる国の一つ。

 既に超合集国が有名無実化してる今となっては、もはや加盟の意味もないかと」

「そう…か、止むを得まい」

 

 ルルーシュ…これから僕は如何すれば良いんだ?

 君の死んだ意味が消えてしまう。

 そんな事は有ってはいけないんだ。ゼロレクイエムが無意味だったなんて事は…。

 

懊悩する二代目ゼロ・枢木スザク。彼は超一流の騎士だった。

だが彼は裏切りの騎士としての自分を充分に自覚してはいなかった。

自らの宿業を背負い、死んだと装い、ゼロの仮面を被り、親友を刺殺した。

正義の仮面、それは彼にとって、余りに重いものだった。

フレイヤでトウキョウ租界3500万人を誤って殺した贖罪ではあったが。

 

ブリタニアが強硬姿勢を強め、それに靡く国、そして敵対する国。

合衆国中華も、そのうねりに飲み込まれていく…遂に合衆国インドとの戦端が開かれてしまったのだ。

黎星刻は、そんな情勢を憂いながら…苦難の生涯を閉じた。

 

 済まない…ルルーシュ…この無力な身を許してくれ。

 天子様…何も出来ずに消え行く私は、無念でなりません。

 如何か…ご自愛下さいますよう、冥府よりお祈り致します…。

 

戦乱は激しさを増し、その猛威は世界各国に飛び火しようとしていた。

そしてロイド達は、現在の状況に憤りを感じずにはおれなかった。

ロイド、ニーナ、ミレイ、リヴァル、セシル達は、自らの無力に嘆いた。

 

「なんなのよ…これってさ〜、陛下は何の為に死んだ訳?」

「…ルルーシュは、謝罪なんかしなかった…私に全て教えてくれた。

 そもそも彼だって、ギアスの犠牲者なんですよ?

 でも誰も責めないで、私に全てを語ってくれた…ギアスが起こした悲劇を。

 ユーフェミア様も…シャーリーも…ルルーシュが、どれだけ傷ついたか。

 ユーフェミア様が初恋だったって、彼の言葉には絶対に嘘なんか無かった。

 これ以上ユーフェミア様を虐殺皇女だと責めさせない為に…自分を貶めて」

「その回答が、これだなんて納得出来ないよ〜」

「ミレイちゃん、何か方法はないの? スザク君も、ナナリーちゃんも酷い」

「私も納得出来ないのよね…ルルーシュの死んだ意味を台無しにするナナリーも。

 ゼロの仮面を被ったスザクも、大体これ何? 黒の騎士団には、ホント腹が立つわっ!」

 

「これさあ…ルルーシュって何の為に死んだんだよ…(涙)

 カレンぐらいじゃんか…むりやり明るく見せてるけど空元気丸判り…」

「リヴァル…そうよね、よし決めたっ!

 向こうがルルーシュを裏切って断罪したのなら、こっちも捏造してでも貶めてやるまでよ。

 自業自得だわ…そもそも黒の騎士団なんか、カレン以外はロクなのいないじゃない。

 こうなったらブッ潰してあげるわっ! ルルーシュを殺した報いを…ね?」

「ミレイちゃん、でも何するつもりなの?」

「あのね? ボソボソ…」

「「「「「ええっ?」」」」」

 

それから数日後、ネット上に流れたある資料があった…その名を『ゼロレクイエム計画書』

それは徐々に世界中に広まっていった…スザクは驚愕する。

 

 これは極少数の人間しか見る事が適わぬ資料だった筈だ。

 となれば…怪しいのはロイドさんか、オレンジ辺りか?

 これ以上、放っておけない…となれば全員、口を塞ぐしかないか…。

 

そう判断したスザクは、オレンジ畑のジェレミア、咲世子、アーニャを急襲し殺害。

オレンジ畑を全焼させた上で、絨毯爆撃を加えて全ての証拠隠滅を図った。

と同時に、ロイドとセシル、ニーナの行方を追ったが杳として知れなかった。

あっという間に情報は広がり、世界を激震させていく。

 

世界の人々は知った…今の平和を齎せたのは、やはり前のゼロだったと。

今のゼロは真っ赤な偽物という真実を…悪逆皇帝という仮面を被った優しい少年の悲壮な決意を。

政治、経済の全てが、その計画通りに安定し、邪魔な存在の抹消の為の暴挙と。

全ての悪意を、その儚い背中に全て背負って逝った聖人だったのだと。

 

そして真実を知った…帝都ペンドラゴンを破壊し1億もの人間を殺した魔女と悪魔を。

トウキョウ租界を破壊した裏切りの騎士の悪逆さを。

世界を驚愕に陥れた『ゼロレクイエム計画書』の存在は、真実と認識された。

その為、連日のように世界は討論で明け暮れる事となる。

そして、ミレイとカレンは怒りを隠せなかった。

此処までして、スザクは真実を隠蔽しようとするのか?…二人は決意した。

 

「咲世子さん…アーニャ…ジェレミアまで無残に殺すだなんて…絶対に許せないっ!!」

「ミレイ会長…こんなのって酷すぎます」

「もう、頭に来たっ! カレン、遣るわよっ!」

「はいっ!」

 

そして世界中に嵐を呼ぶ、真実の中継が始まるとの噂が流れた。

噂が噂を呼ぶ特別番組が始まる…世界中の人々が注視する程に。

それは『ゼロレクイエムの真実』という名の番組であった。

メインキャスターはミレイ、そしてゲストとしてカレンが招かれていた。

カレンの顔が余りにも憔悴困憊していた事が、視聴者にとって重大事と思わせた。

それは唾棄すべき裏切り者達の記録だったのだ…。

 

「ニュースキャスターのミレイ・アッシュフォードです。

 此度は、とんでもない映像を手にいれる事に成功致しました。

 まずはコレを御覧ください…余りにも衝撃的な内容なのでノーカットでお送りします」

 

どこか暗い格納庫に入ってくる者が二人…それはゼロとカレンだった。

世界的に有名な二人である。すぐに世界中の人々は把握した。

だが、そこから驚愕の映像が始まる。

多くのスポットライトを浴び、ナイトメアと多くの銃口が狙っていたから。

そして囲む者の顔立ちは、はっきりと判別出来た。

 

「お、おい? あれって藤堂将軍に…婦人の千葉凪沙じゃないのか?

 それに扇首相まで…黒の騎士団の幹部が何故、ゼロに銃を向けてるんだ?」

 

音声が無い為、はっきりとした会話は判らないが、ゼロが仮面を外した。

その素顔は…死んだ悪逆皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアのものだった。

衝撃的な事実に、世界中を驚愕が走る。

 

「げ? あ、あれって…死んだルルーシュ皇帝じゃないのか?」

「そ、そうだよ。あれって、間違いない…ゼ、ゼロが…そんな?」

「ゼロを護ってるのって…零番隊隊長の紅月カレンだよな?

 な、なんで…ゼロの下を離れるんだよ?

 どうして黒の騎士団がゼロに銃を向けてるんだよ?

 うわ、あいつら撃ちやがった…ひでえ。全員、目が血走ってる」

「お、おい…あれって蜃気楼じゃ?」

 

藤堂や扇達が銃を向け、撃ち放ったゼロを間一髪救ったナイトメア蜃気楼。

そして驚いたのか、動こうともしない扇達を尻目に、蜃気楼がゼロを庇い脱出。

正気に戻り、慌しく追跡に動き始める面々。

そして…呆然と座り込む紅月カレンの痛々しい姿が映っていた。

 

「TVを御覧の皆さん、この映像は決して特撮でも捏造でもありません。

 フレイヤ弾頭で死んだ筈のゼロが、その後で黒の騎士団員に銃口を向けられています。

 信じられない光景ですが、今にも射殺されそうになった一部始終の真実の映像です。

 現在のゼロが、以前のゼロとは別人だというのは間違いないようです。

 ゼロの正体がルルーシュ皇帝であったと…彼は、世界を解放する為に戦ったと。

 ですが、その部下達が卑劣にも敵に通じ、彼を射殺して売り渡そうとしたというのです。

 これを御覧下さい。信じられない悪夢の様な唾棄すべき男の映像ですっ!」

 

そして別の会議室のような映像が映し出される。

扇がシュナイゼルに詰め寄る場面が…その裏切りの場面が世界中に流れる。

 

「…私が一番、恐れた男だよ。彼を引き渡して貰えないかい?」

「ゼロは、お前に引き渡す。だが…そのかわり、日本を返せっ!」

 

世界は絶句した。ゼロを敵に売った? 代償に日本を返せ?

日本人は、この時…絶望感に襲われた。何と言う愚かな事をしたのだと。

しかも、その男が今は日本の首相だなんて? これは何と言う悪夢だと。

 

「そしてゼロが死亡と発表した黒の騎士団は、間違いなくゼロを裏切った。

 この映像から彼の親衛隊長だった紅月氏は、何も知らずにいたようです。

 一歩間違えば、ゼロに忠誠高い彼女が殉死した事に疑う余地はないでしょう」

 

そして呆然と涙を流す紅月カレンの自失してる姿は、世界の涙を誘った。

これまでの彼女の苦しみが、画面から痛い程に伝わってくるからだ。

 

「現在、紅月氏はアッシュフォード学園に復学した後の今も通学中です。

 ですが、余りにも痛々しい憔悴した姿が目立つとの多数の目撃証言があります。

 この時に彼女がゼロに何を言われ、そして夢遊病者のように彼の下を離れたのか?

 そして、この映像をごらん下さい…同じ場所で取られたモノです」

 

そしてアップになった映像には、冷たい眼で見下ろすシュナイゼルとカノンが。

何故、黒の騎士団と共にブリタニアの宰相が居るのか?

これこそ裏切りの証だと、誰の眼にも明らかであった。

 

「黒の騎士団は、シュナイゼル宰相と手を組む為にゼロを売ったものと思われます。

 何故こう言えるかと申しますと、理由が有ります。

 現日本首相である扇要氏の奥方はブリタニア男爵ヴィレッタ・ヌゥ女史だからです」

 

「「「「なあっ?」」」」

 

「しかも彼女は機密情報局の長であり、ルルーシュを監視するための存在だった。

 これは明白な事実が確認されていますし、証拠も挙がっております。

 そしてゼロであったルルーシュ皇帝は、枢木スザクによって囚われシャルル前皇帝に差し出されたというのです。

 その際にルルーシュ皇帝は、どのような手段か判りませんが記憶を改竄されて監視されていたと。

 私ミレイ・アッシュフォードも、シャルル前皇帝に記憶を改竄されておりました。ようやく先日、治療により記憶が戻ったのです」

 

「お、おい…ホントかよ?」

「ウ、ウソだろ?」

 

「ブリタニアは、人の記憶を改竄できる技術を持っていた…これは余りにも恐ろしい事です。

 そう考えれば扇首相は、実はブリタニアのスパイだったのではないか?

 それなら全ての辻褄が合うのです…彼こそ日本にとって獅子身中の虫だったのでは?

 いえ、黒の騎士団の幹部もブリタニアのスパイだったのかもしれません。

 つまり扇首相は、日本を取り戻す為にスパイとなって、ゼロを裏切った可能性が高いのではないでしょうか?

 それに黒の騎士団の幹部達の行動も、余りに異常です。

 これは恐らく扇首相に、催眠術でもかけられたのかも知れません。

 それともブリタニアに、記憶を改竄された結果とも思われます。

 だとすれば行ったのはヴィレッタ女史、もしくはシュナイゼル宰相の可能性もあります。

 何と言う、ホントに何と悪辣極まりない行為なのでしょうか?」

 

ミレイの、扇への断罪は続いた。そしてミレイは、涙を流すカレンにマイクを向ける。

 

「紅月さん…思い出すのは苦痛と思いますが、あの時ゼロに何と言われたのです?」

「君だけは…生きろ…って…ごめんなさい、ルルーシュ。

 私も、あの時…貴方を護って死んでいたら…こんな事には(涙)」

「これは斑鳩内での隠し撮り映像を、偶然に紅月氏が手に入れたものです。

 何時の日か、ルルーシュ陛下の名誉回復をと思ったればこそ。

 忠義のゼロの騎士な紅月氏だけに、これまで苦渋の日々だったと察せられます。

 その艱難辛苦の日々は、想像するに余りあるでしょう」

「うわああ…ごめんなさい…ゼロ…ルルーシュ…ごめん(涙)」

 

首相官邸の扇は、この中継を見て狼狽しきりだった。

何故、こんな映像が今頃出て来るんだと。そして短絡思考に陥った。

あのキャスターも、カレンも、ルルーシュのギアスに掛かってるに違いないと。

扇は、全ての罪をギアスのせいにしてしまう強迫観念に陥っていたのだ。

 

「何だコレは…? 俺が催眠術で皆を操ったとでも言うのか? 酷い言い掛かりだっ!」

「扇首相、抗議と問い合わせの電話が相次いでます」

「騒乱罪で、あの二人を捕らえろ。射殺しても構わんっ!」

「しゅ、首相?」

「反論は許さん! あの二人を射殺しろっ! 悪逆皇帝ルルーシュの仲間だっ!」

 

扇の命令により、すぐさま特殊部隊がTV局に押し入り、襲撃した。

その映像が、そのまま世界中に流れる…ミレイとカレンが射殺される映像が…。

マシンガンを撃ちまくり、TVスタッフごと皆殺しにするという残虐さで。

二人とも血を吐きながら、命の火が消えていく様を目撃して…。

こんな光景が実況中継されるなど前代未聞の事だったろう。

 

この時、世界中の視聴率は90%にまで達していた…。

 

「あ〜あ…殺られちゃったか…ゴメンね? カレン…巻き込んじゃって」

「…良いんです…でも、これで私もゼロの元へ行ける…ごふ…」

「そうね…私の大事な宝物…穢す連中の正体…暴けたしね…ごほ…」

 

紅月カレン20歳、ミレイ・アッシュフォード21歳…散華。

身体中を蜂の巣にされながら…だが二人ともに安らかな死に顔であった。

血の海になった鮮血のテレビスタジオは、世界に哀しみと怒りを齎した。

小さな火が集まり、大きな炎を作り出す…世界のあちこちで暴動が発生した。

 

この数日後、扇内閣は退陣を余儀なくされ、扇とヴィレッタは姿を晦ます。

それは藤堂、千葉、南、杉山、玉城も同様だった。 

 

そして悲劇が始まる…彼等は何時の間にか蓬莱島まで逃げ延びていたのだった。

扇も、藤堂も、玉城も、ようやく落ち着いたのかカレンを貶していた。

それを哀しそうに見つめる千葉とヴィレッタ。

 

「くそっ! カレンの裏切り者がっ! やっぱりアイツはギアスに掛かってたんだっ!」

「悪逆皇帝を庇うとは…紅月のヤツ、愚かにも程がある」

「ったくだ、カレンもバカだぜ。でもよ、何でゼロを粛清しようとした映像が有るんだ?」

「どうせ死んだディートハルトのだろう。あんなのをゼロも登用するからだぜっ!」

 

「ふう…千葉…私は多分、間違っていたんだな」

「それは私もでしょうね。あの時、ルルーシュに銃を向け貶したのですから。

 彼をペテン師だと。それが彼を追い詰めてしまったのでしょうか」

「ゼロレクイエム…か。ルルーシュに全てを背負わせた罪は重いな…え?」

 

ルルーシュやカレンを誹謗する扇達。

そして蓬莱島の司令室に、いきなり映し出される映像。それは……?

 

「だ、誰でえ?…って、てめえ、まさかアインシュタイン博士かよ?」

『貴方達は、私の大事な友達を皆、殺してくれました。

 ミレイちゃんも…カレンも…そして…ルルーシュも。

 先に行って謝って下さいね? 私も、後から逝きますから……』

「ど、如何いう意味だ?」

『日本と引き換えにルルーシュをシュナイゼル殿下に売った首相さん。

 この通信ですけれど、実は今…世界中に流れてるんですよ?』

「なにぃ?」

『実は、その蓬莱島にはフレイヤが仕掛けて有るんです。

 ああ…ご安心下さいね。そこに居るのは貴方達だけですから』

 

ニーナが、スイッチを押す。その刹那、蓬莱島に機械ボイスの警報が流れる。

 

『フレイヤ起動!…あと2分で爆発臨界…そこから至急、退避して下さい』

「「「「「げえっ!?」」」」」

「ち、畜生〜」

「こんなところで死んでたまるもの…な、凪沙? ぐわ?」

 

逃げ様とする藤堂に対して銃声が響き、胸から鮮血を吹き出して倒れる…即死だった。

 

「済みません…藤堂将軍…私も罪を負うべきだったんだ。

 余りにも気付くのが遅すぎた…自分達の罪深さを。

 卜部、仙波、朝比奈…紅月…そしてルルーシュ…本当に済まない」

 

千葉が藤堂を射殺した後、自らも銃を米神に当てて引き金を引いた。

旧姓千葉こと藤堂凪沙も、夫の後を追い…自害して果てた。

それを見て慌てて逃げる南、杉山、玉城達…呆然とする扇を残して。

そしてヴィレッタは千葉の銃を拾うと、扇の傍へと移動した…決意を秘めて。

 

「要さん…」

「ち、千草…逃げろ。早くっ!」

「私は、凪沙さんみたいには出来ない…貴方より先に彼に謝ってきます」

「あ、謝るぅ? そんな必要なんかないっ! 

アイツは…ルルーシュは、悪辣なペテン師なんだっ!

 そうだ! 俺達の赤ちゃんが死産だったのもギアスの仕業に…」

「とうとう…最後まで、要さんは判らなかったんですね…さよなら…」

「ち、千草…止めろおおおおおおおおぉ…」

 

銃声が響く…米神に銃口を当て、自害するヴィレッタ。

そして…遂に、運命のカウントダウンが終わりを告げた…。

 

『10…9…8…7…6…5…4…3…2…1…0』

 

「畜生ぉ! ルルーシュうううう…この悪魔ああああああああああ…」

 

最後までルルーシュを憎悪しながら、扇はフレイヤの閃光と共に散った。

蓬莱島は…跡形もなく消滅した。そして世界は昏迷の中へと堕ちて行く。

ブリタニアにしても、多くの国民の怒りが爆発していた。

帝都ペンドラゴンを消失させたフレイヤ発射の張本人たる2名を許す筈もなかった。

ゼロたるスザクにも非難が集中していたが、暴動鎮圧も思うように進まなかった。

焦燥感漂う帝国中枢部に訪れる人影に驚きつつも…。

 

「ニーナ? それに…リヴァル?」

「ニーナ…さん?」

「ゼロ…いえ、スザク…それにナナリーちゃん。貴方達は何故生きてるの?」

「え?」

「ミレイちゃんも…カレンも…それにルルーシュも死んだのに…何故なの?」

「そうだよっ! ミレイ会長も、カレンも…ルルーシュもさ…何でなんだよ?

 俺…許せねえんだ。ルルーシュが死んだのに…お前達が生きてるのが。

 何がゼロレクイエムだ。ちっとも世界は、平和になんかなってねえ。

 ブリタニアが今やってる事は、昔と結局おんなじ事じゃねえかよお」

 

「そうなんだよね〜? それで僕も、嫌になっちゃったんだよ〜」

「私もね…如何しても判らないの。

 スザク君…何故、ジェレミアさんや咲世子さん、アーニャまで殺したの?

 そんな必要なんか、何も無かったでしょう?

 結局、貴方はルルーシュ陛下を殺したかっただけだったのね」

「ロ、ロイドさん…セシルさんまで?」

「皆でさ〜? 陛下に謝罪に行こうよ」

「陛下が死んだ意味を…ムダになんかさせません。その元凶を滅します」

「げ、元凶?」

「まだ気付かないの、ナナリー? 貴方は兄であるルルーシュを利用してただけなのよ」

「そ、そんな…ニーナさん、私は…」

「ルルーシュは、貴方の為に優しい世界を作ろうとした。

 でも今の貴方は、シャルル皇帝と全く同じ事をしているだけなのよ。

 一緒にルルーシュに謝りに行きましょう…私達は、平和な世界に存在してちゃいけないの」

「俺も逝くからさ…ミレイ会長や、カレンと待っててくれよな…ルルーシュ?」

「陛下ぁ…ジェレミア卿や咲世子君、アーニャも、そっちで居ますかねぇ〜?」

「ロイドさん…一緒ですよ、きっと。陛下は優しい方ですもの」

「そうだよね〜。それじゃニーナ君〜…逝こうか?」

「はい…ロイド先生、このフレイヤで…」

 

「いやあああああああああああああ……」

 

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお…」

 

「ルルーシュ…やっと私は君に逢えそうだね…全く酷い義弟を持ったものだよ。

 ギアスという力が君を縛り付けてしまったのだろうが、ようやく私も全ての業から解放されるのかな?」

 

ナナリーとスザクが絶叫する最中、ニーナが持っていたスイッチを押す。

その刹那、宰相府のみが閃光に包まれ消失した…ニーナも、ロイドも、リヴァルも、セシルも。

ナナリーとスザク、シュナイゼルを道連れにフレイヤの爆発に包まれて。

それは神聖ブリタニア帝国にとって最後の皇帝の末路だった……。

 

そして…それを、別の場所で眺めていた人物が居た。

彼の名はカノン・マルディーニ、シュナイゼルの側近だった男である。

 

「これで…ようやくギアスから解放されましたね、シュナイゼル殿下?

 あとは全世界のフレイヤだけ…では世界の全ての軍事力を片付けましょうか。

 これで世界の大掃除ですね。ニーナ、これでフレイヤは全て消えるわ…貴方の業も、私の業も。

 私って、後世で何と呼ばれるかしら…恐らく人類最大の殺戮者って嫌悪されるかも?

 ルルーシュ様…軍備が…力がある限りは、人の業は終わらないのですよ。

 全てを根絶やしにしてこそ平和が訪れるのだと私は思いますよ…ちょっと傲慢でしたかね。

 たっぷりと後でシュナイゼル殿下と共に、お叱りを受けますので。優しい悪逆皇帝様…うふふ…終わりです」

 

カノンがボタンを押した…その刹那、カノンの居る場所が閃光に包まれた。

そこはブリタニア軍が攻撃の為に全軍が集結していた軍事基地だった。

閃光の後…10Km四方は全て消失し、ブリタニアは大半の軍事力を失った。

 

同時刻、各国に配備された全てのフレイヤが炸裂し、世界の軍事基地と艦艇の大半が閃光の中に消えた。

カノンは全て計算した上で、フレイヤを世界各国の軍事拠点に配布していたのだ。

全ては彼の計算通りに事は進み、一発残らず現存するフレイヤは消失した。

世界中の大半のナイトメアと軍事力を道連れにして…。

 

そもそもシュナイゼルが、全てのフレイヤを回収したと思い込んでいたのには理由がある。

何故ならば副官のカノンが非常事態に備えて隠しており、それを全く把握していなかったのだ。

ギアスに掛けられた主諸共、世界を破滅に導く為に…秘密裡に各国にフレイヤを渡していたなどとは。

だが真の起動スイッチを渡さずに……そして黙示録が始まる。

 

全世界はフレイヤの悪夢の閃光に曝され、人類は…その総人口の4/5を失った。

神楽耶は、日本の京都の寺で…尼となり、菩提を弔っていた。

その世界の余りの悲惨さを嘆きながら…ただルルーシュを偲んで。

 

 ルルーシュ様…本当に貴方の死って何だったのでしょうか?

 こんな悲惨な事になってしまうなんて…やはり私は、何も出来ない無力な女です。

 貴方が傍にいらっしゃらない事が、これほど悲劇を生むのですね。

 ゼロレクイエム…ホントに…貴方って、自分の事が判らない方でしたわ。

 

世界遺産の宝庫たる京都は極東事変の時も、大規模攻撃は回避されていた。

今回も、そうであった為…神楽耶は、死ぬまで祈り続けた。

ルルーシュと、散っていった多くの命を悼み儚んで……。

 

開発者たるニーナ・アインシュタイン博士は、人類に贖罪を与えて魔女帝と宰相、ゼロを道連れに仲間と殉死。

告発者たるミレイ・アッシュフォードは、人類に真実を伝えて非業の死を遂げた。

紅の騎士・紅月カレンは、自ら背負った罪を償う為に、かつては兄の友人だった愚者の悪意の前に散った。

 

そして…ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは、世界平和の礎となるために悪逆皇帝の汚名を自ら被って殉死した賢帝と後世では呼ばれた。

 

逆にナナリー・ヴィ・ブリタニアは、兄を利用した魔女帝と忌み嫌われた。

彼女の存在がなければ、断じてルルーシュ皇帝がゼロレクイエムを行わなかったであろうと。

しかし、これに関しては正論反論が飛び交う常に激しい論戦となったと伝えられる。

 

そしてシュナイゼル・エル・ブリタニアは、ゼロを陥れた策謀家と多くの者に罵られた。

扇要ほか黒の騎士団幹部は、ゼロを売った裏切り者であり売国奴とされ日本人全てから侮蔑の対象となった。

2代目ゼロ・枢木スザクは、所詮は裏切りの騎士で終わったと蔑まれて死んだ。

だが…ルルーシュの遺志を継ごうとした行為そのものは是とされた為、後世の歴史家でもゼロとしての彼の評価は大きく賛否が分かれる。

 

そしてカノン・マルディーニは…史上最大の殺戮者の異名を欲しいままにする。

だがシュナイゼルを庇った忠臣との評価の為、結局はシュナイゼルの悪名を絶大にする皮肉な結果となった。

ルルーシュの短い生涯の中で、彼の遺した功績は小さなものではない。

だが…彼を愛する者達が大勢居た事、そして人の業が悲劇を拡大した。

 

そして魔女C.C.(シーツー)は、その状況を見届けるだけだった。

 

 何とも平和とは、紙細工の様に脆いものだな…ルルーシュ。

 お前が世界に掛けたギアスは、余りにも呆気なかったよ。

 お前が優しすぎたからなんだろうな…やはり一人の少年が背負うには重すぎたんだ。

 やはりギアスという力は、人を破滅させるだけか…お前を最後にするかな。

 私の望みを適えられそうなヤツなど、もう現れないだろ。

 

 だがナナリーを救おうとしたのは、お前のエゴでしかなかったんだぞ?

 アレだけの罪を背負った彼女に全てを託したのが、そもそものミスだ。

 それにスザクにしても同じ事だ…アイツの優しさなど当に枯れ果てていたのに。

 

 にしてもな…お前、ミレイもニーナも、結局は落としていたんだな(苦笑)

 この天然女誑しが…まあ私も、結局は同じ様なものだったかもしれん。

 もう流石に私も疲れたよ…やっぱり私は人と接するべきでは無い魔女でしか無いのだろう……。

 まあ…私の渡した最後のギアスが、お前で良かったのか悪かったのか?

 

ずっと魔女は人類の変遷を見届けつつ、それ以降は遂に表舞台に出る事がなかった。

魔女に取って最後の契約者を失った事が、それほどまでの重荷だったのだろうか?

優しき魔女は伝説だけを残し、その姿を消した………。

 

 

あの惨劇から既に数百年の時が過ぎ去ってしまった。

全てが伝聞や記録だけで語られる後世に於いて、この動乱の時代の考察は、余りにも多くの書物と所見を生み出した。

不明瞭な事実関係が多い中、歴史家の全てが嘆く一人の少年の生涯の記録は人類社会にとって大きな贖罪であったのかもしれない。

人類とは…どれほどの血を流さなければ平和を手に入れられない愚者かと。

 

ようやく人類が掴んだ平穏の時代、戦いを忌む現在であっても、その答えは得られそうもない………。

 

 

 

後書き

何となく断罪っぽい話になりましたが…まあ、ちょっと書いてみたかった話です。

映像はディートハルトの隠し撮りって事で。会議も撮ってたでしょうしね。

TV版だけで小説版は全く読んでないので判りませんが、R2最終話でナナリーが多分ブリタニア皇帝になってるんでしょうね。

ゼロとシュナイゼルの補佐みたいな形で。シュナイゼルもギアス掛かってますしね。

ただ正確な数は判りませんが、ナナリーは帝都ペンドラゴンを消滅させたんですよ?

億まで居たかどうか判らないですが、トウキョウ租界程度で3500万人ですから、

帝都なら1億人ぐらい被害が出てても不思議じゃないかなと思いまして。

 

それに対して罪も問われないのは悪逆皇帝の存在があったとしても、ちょっと異常です。

余りにも不自然すぎるとしか思えません。 解放者ゼロはともかく、ナナリーとシュナイゼルって最大の戦犯ですよ?

しかも黒の騎士団は、リーダーに謀反だし。どうみても、たった一人が全ての罪を背負うなんて変すぎるでしょう。

一時は騙せたとしても、ちょっと不自然な要素が多すぎるし、上手く行き過ぎると勘ぐる人は必ず出て来る筈です。

幾らなんでも、あれでハッピーエンドなんて有り得ないですよ。ナナリーと扇の「君と握手」でチャンチャン…あれは無いでしょうに^^;

あれは第三者にすべきだったと思えてならないんですが、絵に成るからかなあ?

 

 

 

12.11.18加筆改稿版up

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